雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

言葉は人柄を表す

2017-07-31 08:55:04 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語

               言葉は人柄を表す

言葉遣い一つで、お人柄って分かってしまうものですよ。

手紙に書かれた言葉の失礼な人ときたら、全く憎々しいものです。何様のつもりか知りませんが、世間を小馬鹿にしたような、適当に書き流している言葉遣いが憎らしいのですよ。
反対に、それほどでもない人に対して、馬鹿丁寧な言葉遣いというのも、これもまた良くありません。
馬鹿も小馬鹿も困ったもので、このような失礼な言葉遣いの手紙は、自分が受け取ったものばかりでなく、他人の所に来たものでさえ腹立たしくなってしまいます。

それは手紙に限ったことではありません。
面と向かって失礼な言葉を遣っているのは、さらに苦々しいものです。
田舎風の人がお国言葉丸出しで話すのは、真摯な気持ちさえあれば、それはそれで愛嬌というものです。そうではなくて、さんざん都の暮らしをしている人が、敬語や謙譲語を満足に遣うことが出来ず、相手の呼び方や自分を指す言葉さえわきまえていないのを見ますと、いくら知識が豊かでも幻滅してしまいます。
使用人や郎党などが、高貴な御方や仕えている主人の悪口を言ったり、乱雑な言葉を遣ったりしているのを見ますと、その者たちばかりでなく、その主人のお人柄さえ疑いたくなってしまいます。

こんなことを申し上げますと、「あなたは細かなことに気が付き過ぎる」という人がいますが、どうも私も、口うるさい嫗(オウナ)に近づいてしまったのでしょうか。


(第二百四十四段・文言葉なめき人こそ、より)
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男というものは

2017-07-19 08:18:22 | 麗しの枕草子物語
           麗しの枕草子物語

               男というものは

至れり尽くせりで婿を迎えたのに、すぐに通って来なくなった婿が、舅と出会った時には「悪いことをした」と少しは思うものなのでしょうか。

ある男が、とても羽振りのよい有力者の婿になったのに、ほんのひと月も経たないうちに通って来なくなってしまったので、娘の邸では男の不実を言い募り、娘の乳母などは呪いをかけるほどだというのに、その翌年の一月、その婿が蔵人に昇任したのですよ。
「驚いたなあ。あの有力者の娘にあれほどの仕打ちをしているのだから、昇任など考えられない」
などと、世間で噂されているのは、当人も耳にしていることでしょうよ。

六月になって、ある御方が法華八講を催され、多勢の方々がお説教を聞きに集まりました。
その時、蔵人に昇任したあの婿が、表袴・黒半臂(オモテハカマ・クロハンピ)などたいそう美々しく着飾って、置き去りにした妻の牛車に接触してしまいそうな位置に立っているのを、
「車中の妻はどのような気持ちで見ているのだろう」
と、親しい人たちは同情し、それほどでもない人たちも、
「あの男、よくも平気で居れるものだ」
などと、あとあとまで噂したものですわ。

まあ、男などというものは、思いやりとか、他人の思惑などには、無頓着なように出来ているのでしょうが・・・。


(第二百四十八段・いみじう仕立てて・・、より)
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何を考えているのでしょうか

2017-07-07 08:46:08 | 麗しの枕草子物語
           麗しの枕草子物語

               何を考えているのでしょうか

男というものは、一体何を考えているのでしょうね。本当に分かりませんわ。

とても美しい女性を見捨てて、失礼ですが、とても器量の見劣りする女と同棲しているなんて、どういう考えからなのでしょうか。
宮中に出仕していてそれなりの評判を得ている人とか、良家の御子息などは、大勢の女性の中から、見目麗しく気立ての良い女性を選んで懸想なさるべきです。
また、例えとても手が届きそうにない女性であっても、「本当にすばらしい」と思われる女性を、命をかけて恋するのが良いのです。
立派なお屋敷の女性や、深窓にあって見ることも叶わないような人で評判の高い女性こそ、「ぜひ、わが妻に」と思いますでしょう。それでいながら、女の目から見ても、「実につまらない」と思われる女を愛するのは、あれはいったい何なのでしょうか。

容貌に優れ、心根もやさしく、字を書けばすばらしく、歌も情緒あふれるものを詠みというすばらしいお方が、男の薄情を悲しんで手紙を寄こしたりしますのに、男といえば、調子の良い返事だけはするものの、家には寄り付かず、他の女の所へ通ったりしているのは、あきれてしまい、人ごとながら腹が立ってきますわ。
まあ、男というものは、女の苦悩というものを、全然分かっていないのですよ。全く・・・。


(第二百五十段・男こそ・・、より)
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