麗しの枕草子物語
笛といいましてもねぇ
笛といいましてもねぇ、そりゃあ、様々ですわ。
横笛などは、それはそれはすばらしいものですよ。
妙なる音色が遠くより聞こえて来たかと思いますと、少しずつこちらに近づいてくる時などは、何ともすばらしく胸がときめきさえしますもの。
反対に、近くで聞こえていたものが、少しずつ遠のいていって、ほんの少し聞こえるだけになっていくのも、ああ、どんな君達(キンダチ)が吹いているのだろうと、これはこれで情緒があるものです。
笙(ショウ)の笛となりますと、少し様子が違いますわね。
月の美しい夜、車での通りすがりに聞こえて来たりするのは、これはこれで、なかなか良いものなのです。ただね、近くで見ますとね、何かごちゃごちゃと難しそうで、扱う人が気の毒になってしまうのですよ。それに、吹く時の顔ときたら、もう、こちらまで苦しくなってしまうような表情ですよ。
もっとも、横笛といっても、吹き方次第ですけれどね。
篳篥(ヒチリキ)となりますと、笙どころではありませんわね。
うるさくてうるさくて、くつわ虫の団体みたいなものでしょう。とても近くでなんか聞きたくもありませんよ。特にね、下手な人が吹く時には、腹さえ立ってきますわ。
賀茂の臨時祭などで、横笛がすばらしい音色を奏で始めて、「ああ、すばらしい」と、うっとりなりかけたとたん、途中から篳篥が加わって、これでもかと、がなりたてるのですよ。あれでは、どんなに美しい御髪の持ち主だって、髪が逆立ってしまうような心地がするというものですよ。
まあ、人様々といいますから、笛も様々でいいのかもしれませんが・・・。
(第二百四段・笛は、より)