枕草子 第百九段 卯月の晦がたに
卯月の晦がたに、泊瀬に詣でて、「淀の渡り」といふものをせしかば、船に車を舁(カ)き据ゑていくに、菖蒲・菰などの、末短く見えしを取らせたれば、いと長かりけり。
菰積みたる船のありくこそ、いみじうをかしかりしか。
「『高瀬の淀に』とは、これを詠みけるなめり」と見えて・・・。
三日、帰りしに、雨のすこし降りしほど、「菖蒲刈る」とて、笠のいと小さき着つつ、膝いと高き男童などのあるも、屏風の絵に似て、いとをかし。
四月の末頃に、長谷寺に詣でて、「淀の渡り」ということをしましたが、船に車を乗せて行くと、菖蒲、菰などの葉の先が少し見えたので、従者にそれを取らせたところ、とても長いのものでした。
菰を積んでいる船が通って行くのがとても趣がありました。
「『高瀬の淀に』という歌は、こういう風景を詠んだのだろうと」と思われました・・・。
五月三日に帰りましたが、雨が少し降っている時に、「菖蒲を刈る」ということで、笠のとても小さなものを被って、衣をかかげて脛を長々と出している男や、子供などがいるのも、屏風の絵によく似て、とても風情があります。
珍しく、目の前の情景が素直に描かれています。
いえいえ、決して少納言さまが素直ではないということではございません。
それにしても、少納言さまはフェリーボートに乗っていたのですねぇ。
卯月の晦がたに、泊瀬に詣でて、「淀の渡り」といふものをせしかば、船に車を舁(カ)き据ゑていくに、菖蒲・菰などの、末短く見えしを取らせたれば、いと長かりけり。
菰積みたる船のありくこそ、いみじうをかしかりしか。
「『高瀬の淀に』とは、これを詠みけるなめり」と見えて・・・。
三日、帰りしに、雨のすこし降りしほど、「菖蒲刈る」とて、笠のいと小さき着つつ、膝いと高き男童などのあるも、屏風の絵に似て、いとをかし。
四月の末頃に、長谷寺に詣でて、「淀の渡り」ということをしましたが、船に車を乗せて行くと、菖蒲、菰などの葉の先が少し見えたので、従者にそれを取らせたところ、とても長いのものでした。
菰を積んでいる船が通って行くのがとても趣がありました。
「『高瀬の淀に』という歌は、こういう風景を詠んだのだろうと」と思われました・・・。
五月三日に帰りましたが、雨が少し降っている時に、「菖蒲を刈る」ということで、笠のとても小さなものを被って、衣をかかげて脛を長々と出している男や、子供などがいるのも、屏風の絵によく似て、とても風情があります。
珍しく、目の前の情景が素直に描かれています。
いえいえ、決して少納言さまが素直ではないということではございません。
それにしても、少納言さまはフェリーボートに乗っていたのですねぇ。