麗しの枕草子物語
ご立派なことで
女性関係にお盛んな御方は、そりゃあ、まあ、ご立派なものですよ。
沢山いらっしゃる女性のうち、昨夜はどちらに泊まっていらっしゃったのでしょうねぇ。明け方に帰ってきて、そのまま起きているのですから、見るからに眠たそうなのですが、硯を取り寄せて、丁寧に磨りだしました。後朝(キヌギヌ)の文を書くのでしょう。
決して書き流すようなことはなく、念入りに言葉を選んでいる様子が、ちょっといいものですねぇ。
白小袖などの上に、山吹色や紅の衣を着ていますが、白い衣などにしわが寄ってしまっているのを何度も見つめながら、文を書き終えると、前に控えている女房には手渡さず、自ら随身を呼び寄せて、先方での心得などを低い声で何度も言い含めて、急いで届けさせるようです。
随身が出掛けた後もそのままぼんやりとしていて、お経の適当なあたりを小さな声で口ずさんでいると、奥の方より、御粥・手水の用意が出来ていると催促があるのですが、奥の部屋に入ってからも、文机にもたれかかって、書などを見ているのです。
手を洗い、着替えた後は直衣ぐらいだけ着て、法華経の六の巻を暗誦しています。なかなかに信心深く有難い様子ですが、先ほど使いに出した随身が帰ってきた気配がしますと、折角有難さが出てきた暗誦を突然止めてしまって、女からの返事に心を奪われてしまうなんて、ご立派と言えばいいのかどうか、「きっと仏罰を受けるだろう」と思ってしまいますよ。
(第百八十一段・好き好きしくて、より)