さても このごろは、昔のことが しきりに思いだされる・・・
となり町に 母方のおばあさんが一人で住んでいた。
すぐ近くに子供の家族がいたが、一緒に住むのは 気づまりだとかいって、古いが結構広い家に一人で住んでいた。
わたしは はは親の使いで時々訪ねていった。
まあ いま思うと やはり はは親は気掛かりで、といって そうそう自分が里へ帰るわけにもいかず、代わりに わたしを行かせていたのだと思う。
となり町までは 大分距離があるけれど、わたしは そのおばあさんが好きだったので 行くのが楽しみだった。
行くと いつも よく来たよく来たと喜んで、わらを編んだ ふご のような物の中から お菓子を出して くれるのよ。
ほかの孫や ひ孫に取られんように とっておいてくれるんよ、ね。
でも、いつから入れていたのか、せんべいや おかきは 湿っていたし、干菓子なのか饅頭なのか分からないような物もあった、な。
でも、わたしは とても嬉しかった。
おばあさんは 足は達者だったけれど、歯はほとんどなく 言葉も はっきりとは聞き取れなかった。
顔もくしゃくしゃで 口の悪い大人の中には、「化けるほど生きているからなあ」と言う人もいた。
だが 考えてみると、あのころ あのおばあさんは九十歳くらいだったはずだから、いつの間にやら わたしの方が 遥かに長生きしてしまったなあ、ほんとになあ。