雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

いじわるでしょうか

2017-05-20 08:10:48 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語 

              いじわるでしょうか


一の巻を読んで、その続きを探していたところうまく見つけて大喜び・・・。ところがね、読んでみたところがあまりのひどさにがっかり、なんてこともありますわね。これ、いじわるされているのでしょうか。

何事につけ、「私こそは」と得意顔をしている人をうまくだまし時は、すっきりとしますわ。それも、女どうしよりも男の場合は遥かに嬉しいものですよ。
「このお返しは、必ずしよう」と思っているだろうと、常に気が許せないのも面白いが、何とも感じていないような顔をして、相手を油断させたままでいるのも、これもまた面白いのです。
少々、いじわるが過ぎるでしょうか。

憎らしい人がひどい目にあうのも、「罰が当たるかもしれない」と思いながらも、ほんとは、とても嬉しいのですよ。
これも、私の嬉しいものの一つですが、大きな声では言えませんわねえ。


(第二百五十八段・嬉しきもの、より)
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絢爛豪華な御行事

2017-05-08 08:20:45 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語 

               絢爛豪華な御行事

私が中宮定子さまのもとに出仕してまだ間もない頃の思い出をお話いたしましょう。

中宮さまの御父上、関白藤原道隆様が四十二歳の頃でございましたでしょうか、その御威光は並ぶものなどなく、定子さまが十八歳、それはそれは匂うがごとく艶やかでいらっしゃいました。
私の年齢でございますか? まあ、それはよろしいではありませんか。

私が出仕してまだ半年も経たない二月の廿一日に、法興院の積善寺(ホコインのサクゼンジ)という御堂で、一切経供養を催されるということで、私も中宮さまに供奉させていただくことになりました。
この催しには、天皇の御母上であり、関白殿の御妹であらせられる東三条女院もおいでになるご予定ですので、中宮さまは二月の初旬に二条の宮にお出ましになられました。
私もお付きの一人として参りましたが、多勢での移動でもあり、慌ただしく夜も遅くなり、その日はもう眠たくて眠たくて廻りの様子など何も分からないままに眠ってしまいました。

翌朝、うららかな日差しを感じて起きだしてみますと、御部屋などは白木も新しく、とてもよく行き届いた造作がなされていて、御簾なども昨日新しく掛け替えたものらしく、室内の調度などもすばらしく、獅子や狛犬の置物などは、「いつの間に入りこんで坐っているのか」と感心してしまいました。
もともとは、小さな住宅などがあったのを取り払って、新しく建てられた宮でございますから、木立などはそれほど趣があるわけではありません。
ところが、御階のもとに一丈(3mほど)ばかりの桜が満開の花をつけているのです。「梅であれば今が盛りだが、随分早く咲いた桜だな」と近づいてよく見ますと造花だったのです。関白殿の中宮さまへの御心づくしが伝わって参ります。

関白殿がお越しになられました。
青鈍の固文の御指貫、桜の御直衣、紅の御衣三枚ばかりを御直衣の下に引き重ねてお召しになっておられます。
こちらは、中宮さまを始めとして、紅梅の濃き・淡き織物、固文・無文などを、居合わせる者みなが着ていますので、部屋中が輝くばかりの美しさです。唐衣は、萌黄・柳・紅梅などです。
関白殿は中宮さまの御前にお坐りになり、いろいろとお話されるのに対する中宮さまのご返事などは全く素晴らしく、「実家の者たちにそっと見せてやりたい」などと、私は考えながら眺めておりました。

関白殿が御機嫌よくお話されているうちに、内裏より、式部丞某と申す者が御文を持参になられる。
御文は大納言殿(中宮の兄伊周)が受け取り、関白殿に差し上げますと、包紙を解いて、
「結構な御文ですな。お許しあれば、開けて見せていただきましょう」
と仰りながらも、
「『中宮が大変だ』と思し召しのようですな。畏れ多いことでもございますな」
と、中宮さまにお渡しになられると、中宮さまはあ受け取りになられましたが、すぐに開けられる様子もなく振舞っているのが、実にご立派な様子なのです。

今も目を閉じて思い出せば、見事な牛車の列や、女院の気高いご様子や、花盗人の大騒ぎや・・・、それに、何にもまして、中関白家一族の皆々様の絢爛豪華な御姿が次々に浮かんでまいります。
しかし、あの時、あれほど胸躍らせて拝見いたしました御事なども、ただいまの皇后さまの御身の上を考えますと、時の流れが哀しく、気が滅入ってしまい、その他沢山あった素晴らしい事も、書き続けることなど出来ないのです。


(第二百六十段・関白殿二月廿一日に、より)
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