麗しの枕草子物語
お節介でしょうか
源中将宣方というお方は、何かと気のつかないところの多い人ですが、それはそれで、なかなか憎めない人柄でもあるのですよ。
その宣方殿が、弘徽殿女御に仕えている婢女に打臥(ウチフシ)という者がおりますが、その者の左京とかいう娘と懇ろだというのです。
やむごとなき御方が、いやしい娘と云々・・・、という噂もないことではありませんが、笑い飛ばせるほどの御身分の方ならともかく、そのようなことが宮中でまで噂されるなんて、とんでもないことで、今後のご出世の妨げにもなるのです。
そんなある日、中宮職の御曹司に宣方殿が参り、女房たちを相手に
「時々は宿直などをいたしますが、女房方は何も気遣ってくれないのですよ。せめて横になれる部屋でもいただければ、さらに勤めに励めますのにねえ」
などと、おしゃべりされているのを耳にしたものですから、私が、
「全くですねぇ。誰だって、打ち臥して寝られる所があるのがいいのでしょう。そんな所へは、しげしげとお伺いなさることでしょうね」
などと口出ししますと、
「もう一切、あなたとは口をききますまい。お仲間だと頼りにしていましたのに、無責任な噂をまことしやかに言われるのですから」
と、たいそう向きになって私を責めますので、
「あら、おかしなことを。どのようなことを申しましたか。お叱りを受けるようなことを申しましたかしら」
などと言いながら、傍らにいる女房を揺すると、その女房も心得ていて、
「さあ、別にさし障りのあるような話などございませんでしたわ。さては、それほどお怒りになるようなわけがあるのですね」
と、声をあげて笑うものですから、ますます不愉快そうになり、
「今のも、あの方が言わせたことなのでしょう」
と言う。
「そんなことありませんわ。別にあなたの悪口など言っておりませんわ。他の人が噂するのを聞くだけでも腹が立ちますのに」
と答えて、私は奥に入ってしまいましたが、その後でも、
「人間として恥になるような作り話をした」とか、
「私のことを殿上人が馬鹿にしているので、あの人も同じようにあんなことを言ったのだろう」
と、さんざん恨み言を述べられたそうです。
どうやら、私はとんでもないお節介を焼いてしまったみたいですねぇ。私の気持ちは伝わらず、宣方殿とは、その後疎遠になってしまいました。
(第百五十五段・弘徽殿とは、より)