麗しの枕草子物語
同じ音ではありますが
大路に近い家におりますと、さまざまな音が聞こえてきます。
牛車に乗った男性が、有明の月の美しい光の下で、簾を上げて、
「遊子なお残りの月にゆく・・」
などと、朗々と吟唱しながら通り過ぎて行くのが、実にすばらしい。
馬に乗った人が、同じように吟じながら行くのも、これもなかなか風流なものです。
家の中で手仕事などしていますと、表を馬具のすれ合う音も厳めしく通り過ぎて行くのが聞こえてきました。
「どれほどすばらしい御方がお通りなのだろう」
と、やりかけの仕事を放り出して表に出てみますと、何とまあ、みすぼらしい服装の、何とも卑しげな輩が粗末な馬に乗っていたのですよ。全く腹立たしい限りです。
(第百八十四段・大路近なるところ・・、より)