マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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上・ナワシロジマイの家さなぶり

2018年07月15日 09時24分02秒 | 明日香村へ
明日香村の上(かむら)に、今もなお家さなぶりをされている家がある。

そのお家であるとわかったのは2年前に訪れた平成28年の6月12日だった。

家さなぶりを探すキカッケは我が家にあった蔵書である。

昭和62年4月刊の『明日香風22号』の中に毎季連載していた「明日香の民俗点描」に載っていた写真に喰いついた。

撮影並びに調査・執筆者は大阪城南女子短期大学講師の野堀正雄氏である。

私はお会いしたことがない。

31年前は仕事をしていたビジネスマンの私がお会いすることはない。

ましてや民俗どころか、写真にも興味をもたなかったサラリーマン時代。

大阪から越してきて大和郡山市内に住まいする。

そのころはとにかく奈良の歴史・文化を知ることであった。

どちらかと云えば古墳に興味があった。

そのときの出会いの本が季刊誌の『明日香風』であった。

だから、民俗の写真が掲載されていてもまったく頭に入っていないから「明日香の民俗点描」記事があったことさえ覚えていない。

ふとしたことから我が家の蔵書にあった『明日香風』の頁をめくることになった。

さて、その22号に掲載された「家さなぶり」である。

「明日香村の上(かむら)では田植えが終わると、苗三把を一つに結び、赤飯のおにぎりを三つ重ね、燈明、お神酒などと一緒に、竃の上に供えてお祭りをする。竃がなくなった現在も供える場所は替わったが、カミをまつる人々の心は今も変わらず、丁寧に神饌を調製し、供えてカミにまつる」とキャプションがあった。

三把の苗さんに三段重ねの赤飯が3皿もある。

3、3、3の数が並んだ御供である。

お神酒を供えてローソクに火を灯す。

その写真に品種らしきものを表示する札がる。

小さな文字であったが、拡大したら「四月弐拾五日 蒔キ■■秋晴」であった。

その頁をもって伺ったら、「うちでは・・・」ということだった。

掲載された写真は建て替える前の様相。

なんとなく覚えているが正確には・・、ただ、母親は今でもしていると云ったFさんの出会いは奇跡としか思えない。

その出会いから数々ある上(かむら)の村行事や垣内並びにF家の習俗を記録・取材をさせてもらった。

気都和既神社の村さなぶりに、薬師堂のハッコウサンの他、先祖迎え法要先祖送り、小正月の小豆粥御供参拝である。

そして、ようやく拝見するF家の家さなぶりであるが、この習俗を昭和62年3月に財団法人飛鳥保存財団が発行した『飛鳥の民俗-調査研究報告第一輯(※集)-』によれば「ナワシロジマイ」と呼んでいた。

誌面の記載文は「田植えが終わると、苗を三把持って帰り、荒神さんに供える。苗はそのまま残しておき、七日盆の仏具みがきに用いるとよく汚れが落ちるという。上(かむら)では、苗三把、苗松(※飛鳥坐神社・おんだ祭の苗松)、お神酒、灯明、三つ重ねの赤飯のおにぎり、を荒神さんに供え、さらに、翌日、ムラの庚申さんに再度供えられ、稲の無事成長・豊作を祈願される。これは上(かむら)だけで見られる行事である。荒神と庚申さんの音が似ていることと、さらに庚申さんが百姓の神さんとして信仰されているために、生じてきた信仰行事と考えられる」である。



上(かむら)に着いた時間は午後1時。

Fさんは忙しくしていた。

朝から始めた田植えは奥さんと息子さんが手伝ってできる作業。

棚田は自宅より離れている。

午前中いっぱいどころか午後の時間帯もたっぷりかかる作業である。

家の前にある田んぼは田植えを一番最後にする場である。

例年、この場を苗代田にしている。

4月後半にしている苗代田。

育苗機は一切使わない自然にまかせる苗代作り。

今年は生育が遅かった。

水溜めしたのもこの月の3日から5日間の期間。

息子さんに応援を仰がなくてはならないし、自然相手に悩ませる毎年のこと。

「ナワシロジマイ」の日に田植えをすると一旦決めたら日程を覆すことはない。

当日が雨降りになってもカッパ着こみで作業をする。

昔は汗蒸れしない蓑であったが、現在はかいた汗でむんむんしながらでもしやんと・・と、いう。

本来なら田植えのすべてが終わった段階で母親がする苗取りであるが、この日は私の記録・取材のために作業を早めてくれた。

ありがたいことである。



何枚か畦に並べておいた一枚を門屋の前まで運ぶFさん。

置いたら、これから始めますので、と云った母親。

苗箱から適当に掴んで取り出した苗。



「こないぐらいに掴んで・・」と見せてくれる苗の本数は正確に数えられないが、割り合い多いように見えた一掴み量である。

根分けするような感じで、少しずつ解きほぐして苗箱から取り出した苗束である。

画面ではその取り具合がわかり難いが、右手、左手とも親指と人差し指を動かして数本ずつの苗を手前に、手前に取り寄せるという感じである。

その繰り返しで束にしてゆく。

手のにぎりいっぱいに寄せる苗の根を引き離すという具合。

根分けというか、株分けの方法である。

両手いっぱいに掴んだ苗束。

根分けした苗の根に土がいっぱい付着している。

両手にあった苗束を一つに合わせる。

そして、土付き苗を持ったままの状態で、手元に置いていた藁を手にする。



「こないして・・」と云いながら稲と根の間辺りにぐるぐる回して締める。

一本の藁では足りない場合もあるが、だいたいが3回締めで括って、外れないように挿しこんで止める。



苗束は三把。

「昔からそうしている・・」という苗三把はこうして取り揃える。

昔は水田の水で根洗いをしていたが、今は山から流れてくる水で洗っている。

流れる水は田んぼの間に造った水路。

そこに電動ポンプを設置している。

スイッチを入れたら吸い上げられた谷水が勢いよくホースから出てくる。



排出するホース水で根を洗う。

洗うというよりも泥落しである。

根に絡まった砂や土を水の勢いで落とす。

あらかたしたら、水を汲んだバケツに根を浸して洗う。

バケツに入れて上下に振ってジャブジャブ。

これこそ根洗いのジャブジャブにすっかり泥が落ちて綺麗になった。

昔は、直播きだったという母親。

撒いたモミダネが生育した直播き田に入って同じように何本かを集めて束にしていた。

今のような密集するようなものではなさそうだから、根絡みはそれほどでもなかったろう。

苗取り作業をしながら、かつてしていたことを話してくださる。

「昔は、今のような機械植えでなく、田んぼに入って手で植えていた。育った苗を採って、この日のように苗を集めていた。苗を摘んでは集める。集めた苗が相当な量になれば、それで1把。揃えた3把を竃に供えたという。その際には育苗した品種を札に書いて立てた」と話す。

品種の札を立てていた当時の様相は前述した『飛鳥の民俗-調査研究報告第一輯(※集)-』に掲載された写真がそうだった。

「籾を蒔いたときにイロバナを立てる。立てた端っこに品種名を書いた竹の棒を苗代に挿していた」と云うから、供える段階で書いたわけでなく、苗代作りの段階で品種札を立てていたということだ。

苗が育って田植えをする。

田植えのすべてが終われば、3把の苗を竃に供える。

そのときに品種札は供えたところに移したということになる。

当時の品種は「穂の柔らかいアサヒボ。穂が堅かったのがカメジ。いずれも粳米だったけど、他に糯米もあった」」と思いだされる。

しばらくして当時の情景を思い出したように「昔は赤飯おにぎりをしていた・・」と云った。



門屋で三把の苗束を作った母親は玄関にたどり着く前にもう一度根洗いをする。

さらに綺麗にした苗さんは力強く地面に振って水を切る。



一旦は玄関にある靴箱の上に置いた三把の苗さん。

大きくなった金魚もびっくりする苗さん。



初めて見たわけではないと思うが、じっと見ている姿が面白くて撮っていた。

撮らせてもらっていた三把の苗さんはとてもお綺麗になった。

綺麗さっぱりに泥を落とした三把の苗は倒れないように纏めて一括りにしておけば、何十年も前にとらえられた「明日香の民俗点描」と同じような姿になった。

まずは、荒神さんに供える。

かつて竃があった時代の祭り方は、蓋の上に、であった。

今の竃はガスコンロ。

コンロの上に荒神さんはないから祭られないという。



仕方ないから荒神さんに最も近いその下にある水屋のところに供えようとローソクに火を灯した。

今までそうしていたが、今回は特別に、ということで、コンロの荒神さんに供えることにした。

竃は今ではガスコンロ。

昨今は現代的文明のIHコンロもあるが、火の神さんを祭る現代の“竃“である。

火があるところには”火の用心“の護符もある炊事場のコンロに丸盆で供えた苗三把。



傍に塩、洗米を揃えて、燭台のローソクに火を灯した。

手を合わせて拝むこともない荒神さんの祭り方であるが、誌面にあった赤飯はみられない。

こうした習俗は一般的民俗でいえば“家さなぶり”と呼ぶ在り方である。



平成22年5月10日に取材した奈良市旧都祁村・藺生T家の家さなぶりであった。

田植えのすべてを終えたTさんが供えた場はかつての竃さん。

今では炊事場になっているが、戎大黒さんを祭っている下に供えていた。

藺生はその場に煎った青豆とお米を包んだフキダワラも供えていた。

(H29. 6.11 EOS40D撮影)


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