ダニー・ライアンは「夢だ」と、恋人の心理療法士で大学教諭のイーデン・ランダウに言う。その夢が実現しつつある。ラスベガスのホテル王ヴァーン・ワインガードが進めているさらなるホテル買収を、横から手を出して手中に収めようとした。
ラスベガスでホテル業の覇権を狙ったダニー・ライアンは、アイルランド系のマフィアの一員として名を馳せた過去がある。今は堅気とされているが、華々しく表に出られない。従って「タラ」グループの共同出資者の地位に甘んじている。しかし実際の経営にはアイデアマンであるダニー・ライアンの影響が大きい。ホテルを買収しカジノホテルを建て巨万の富を築いている。
ヴァーン・ワインガードがデトロイト系マフィア アリー・リカタに上納金を払っていることもあり、調子に乗って横から手を出したダニー・ライアンに刺客が送り込まれる。こうして幾つも血が流れ悲劇が積み重なっていく人生。脳腫瘍のため他界したダニー・ライアンの意思を受けた息子イアンが、妻エイミーとともにダニーの遺灰を海に流す。有形のものは、必ずいつかどこかで無に帰する。ラストは哀切に満ちたものになっているが、跡を継いだ息子は、父親以上に事業を発展させるという一条の光が見えるのは後味のよさとして記憶に残る。
本作は2021年「業火の市」、2023年「陽炎の市」に続く三部作の最終章ということになり、前二冊を読まなくても結構楽しめるものとなっている。私はドン・ウィンズロウの作品は、「ニール・ケアリー・シリーズ」や「ボビーZの気怠く優雅な人生」などでファンになったが、こんな犯罪小説を書くとは思いもしなかった。快い驚きでもある。
さて、ダニー・ライアンは夢を実現しようと努力するが、夢を歌う歌曲も聴いていただきましょう。バリー・マニロウの「Who needs to dream?」とカーペンターズの「I won't last a day without you愛は夢の中に」です。
著者ドン・ウィンズロウは、数々の賞を受賞し高い評価を受ける世界的ベストセラー作家。「野蛮なやつら」「キング・オブ・クール」「ザ・カルテル」「ダ・フォース」「ザ・ボーダー」「業火の市」「陽炎の市」といったニューヨーク・タイムズベストセラー作を含め、これまでに25作を上梓。「野蛮なやつら」がオリバー・ストーン監督によって映画化されたほか、「犬の力」「ザ・カルテル」「ザ・ボーダー」の3部作はテレビシリーズ化が決定し2024年に放送予定。現在複数の作品の映像化企画がパラマウントやNetflix、ワーナー・ブラザース、ソニーなどで進行中、ウィンズロウは本書を最後に作家を引退すると発表している。(本書裏表紙見開きから)