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映画「デトロイト」無許可の深夜酒場摘発に端を発した暴動と警察官の殺人を描く

2018-07-18 13:35:28 | 映画

     
 「エコノミー・プリンティング」という無許可の深夜酒場に、デトロイト警察は内部の手引きもあり夜間の検挙に踏み切った。そこにいた客も含めて裏口から護送車に乗せる手筈が、裏口の頑丈な鍵が壊れない。やむなく表に出さざるを得なくなった。衆目にさらされ黒人たちが警官たちに迫る。何とか黒人の妨害から逃れ、警官たちは去って行った。

 ところが取り残された群衆の一人が商店の窓を石で叩き破り商品を略奪し始めた。堰を切ったようになだれ込む黒人たち。火炎瓶をそこら中に投げ込む群衆。

 1967年7月23日、日曜日現在掠奪者200人以上とラジオは伝える。警察、消防に加え州兵まで動員される。非常事態。1964年7月2日成立の公民権法で法的には人種差別がなくなったが、逆恨みの白人警官の暴力化を助長したのかもしれない。

 暴動のさ中にあっても街の劇場では、歌のオーディションが行われていた。出番を待つラリー(アルジー・スミス)のグループ「ザ・ドラマティックス」は、地元デトロイト発祥のレコードレーベル「モータウン」を目指し意欲的だ。女性三人組の歌唱が終わりいよいよという時になって耳打ちされた司会者の無情な言葉がアナウンスされる。「皆さん、暴動が起こっていますから速やかにお帰りください」

 仕方なくラリーたちはアルジェ・モーテルに部屋を確保した。ここで起こった「アルジェ・モーテル事件」が再現される。

 「アルジェ・モーテルは、暴動の場所から約1.6km東に位置し、そこで暴動鎮静のため構成されたデトロイト市警察、ミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵による民間人への暴行及び殺人が行われ3人の黒人男性が死亡した。
 この事件はアルジェ・モーテルの近くのホテルに狙撃手、銃を持った犯罪者またそのグループがいるとの報告が受けた後に始まり、死亡した一人は容疑者とされ、残る二人は警察による正当防衛によって死亡したとされた。
 暴行、第一級殺人、共謀、職権乱用の罪で3人のデトロイト市警察の警察官と暴行、共謀の罪で民間の警備員が起訴されたが、全員無罪判決が下された」とウィキペディアにある。

 映画では白人の女の子二人と黒人の男数人が部屋でたむろし、その中の一人がおもちゃのピストルを遠くの警官たちに向かって発砲した。弾は出ないが音がする。パンパンという音は、警官たちに狙撃者がいることを窺わせ緊張が走る。これは全く不用意なことだった。

 そしてアルジェ・モーテルに踏み込んできたのが典型的な差別主義者のクラウス(ウィル・ポールター)をチーフに三人の警官だった。突入した時、逃げ出した男(実はおもちゃの銃を撃った男)を射殺、死体の横にクラウスが持っているナイフを置いた。発砲禁止の命令ががあったため正当防衛を主張したいらしい。

 このクラウスは、暴動地区を巡回中にも商品を盗んだ男を射殺している。上司から調書に「殺人」と書きこまれる。クラウスは、うなずいただけ。

 壁に両手をあげて全員が並ばされた。ラリーも白人の女の子も含まれている。「銃はどこだ?」この尋問が長時間続く。拷問に近い尋問には、俳優たちのリアルな演技が緊張感を伴う。クラウス役のウィル・ポールターも夏の暑い熱気をはらむような演技が光った。本人が語るが、共演の俳優たちの素晴らしい演技に触発されたという。

 人種差別をテーマにした本作ではあるが、白人専用のトイレや列車、バスがなくなっただけで、今でも差別意識が熾き火のようにチラチラと燃えているように思える。商店を襲撃したり不用意な発砲も描かれるが、現実に起こる暴動も商店や車への放火が後を絶たない。

 つい先日もサッカー・ワールドカップ・ロシア大会で優勝したフランスで、祝賀パレードのあと警察に解散をうながされ、一部のサポーターが怒り商店を襲撃したニュースがあったが、怒りの発散を別のものに変えないと社会が受け入れてくれないだろう。「貧しくても心は豊か」とならないものか。

 女性監督のキャスリン・ビグローについてウィル・ポールターは、冷静で動じないから安心できるという。男勝りの監督と言っていいのかもしれない。上映時間142分、眠くならずに観終わった。2017年制作 劇場公開2018年1月
  
  
  
監督
キャスリン・ビグロー1951年11月カリフォルニア州サンカルロス生まれ。2009年「ハート・ロッカー」でアカデミー賞監督賞受賞。

キャスト
ウィル・ポールター1993年1月イギリス、イングランド生まれ。
ジョン・ボイエガ1992年3月イギリス、ロンドン生まれ。
アルジー・スミス出自未詳