「無実の人間が死刑になり、その息子は自殺に追い込まれ、娘は本名を名乗れぬ哀しき逃亡者の身に落ちている。そのすべてを踏まえ、わたしはただ一つの質問に答えなければいならない」
一家の驚きの真実を知ったわたし、クリス・ネイピアの答え探しの調査が続く。
34年前、イギリスのコーンウォール地方にある港町トゥルーロの大資産家ジョシュア・カルンウェースが殺された。クリスの大伯父に当たり、アラスカで財を成したといわれる。
犯人として死刑に処せられたのが、クリスの友人だったニッキー・ランヨンの父マイケル・ランヨンだった。
時は移ろいクリスの父の屋敷で姪の結婚披露宴が行われた。その会場に34年ぶりに現れたのがニッキーだった。父マイケル・ランヨンの無実を切々と訴えるが、クリスにしてみればすべてが決着のついた話であり真剣に受け取らなかった。ところが翌朝、敷地に生える大きな木に首をつったニッキーを発見したのがクリスだった。
ショックを受けると同時に同情の気持ちも沸き起こる。そしてニッキーの言葉が頭から離れなくなる。ニッキーのために出来ることとして、真実の調査に乗り出す。
結果は、クリスの祖母がある男に目撃証言を偽装させたというものだった。したがってマイケル・ランヨンは、無実で処刑された。
「私の人生から消えてほしくなかった」と思う女性に裏切られ、怪しげなニッキーの義父が現れたり、クリスの姉パムの夫トレヴァーに妖しげな写真の出現、クリスの自動車修理工場の全焼、実家の部屋がメチャクチャに壊され、裏切った謎の女に最後まで付きまとわれるという複雑なストーリー展開に振り回されることになった。
クリスの父メルヴィンの大罪にどう対処するのかが問題ではあるが、ニッキーの妹ミケーラ(今はエマと名乗っている)とも出会い、彼女の純粋さに「私の人生から消えてほしくない」と思い始めるのが、心地よい響きとなって彩を添える。
この辺を本から抜粋しよう。『ランズ・エンド岬から眺める大西洋の果てしなく広がる景色に感動したエマ。このあと行くところを聞いたエマ、リザード岬と聞いて「もう気に入ったみたい」と言って立ち止まり、丘のほうを振り返った。城壁が日を受けて輝き、その向こうの海が優しい光を放っている。彼女はふたたびこちらを向き、一瞬真顔でわたしを見つめた。
「どうしたんだい」
「なんでもない」彼女は微笑むと、わたしに身を寄せてキスをし、すぐに何事もなかったように土手道を歩きだした。わたしは立ち尽くしたまま、数秒間その後ろ姿を見守った』
海はロマンティックな気分にさせるのである。
著者は、1954年イギリス、ハンプシャー生まれ。「彼の書くミステリーは、多くの場合イギリスの地方の都市や町の歴史的な要素を物語の背景とし、ストーリーは極めて複雑な様相を見せ、例えば何らかの形で主人公が長く秘密にされていた犯罪や謀議に巻き込まれ、日記やあるいは人から人へと手がかりを追ううちに、徐々に全貌が明らかになって行くというものが多い」とウィキペディアにある。