アメリカ南部テキサス州にあるハンツヴィル刑務所の処刑室に、そのニュースが届いたのは午後5時40分。
連邦最高裁判所が死刑囚ドンテ・ドラムに対する心神喪失を理由としたものと、ボイエット請願による上訴受理を求めた二つの案件が却下された。
これで完璧に生きる道を閉ざされた。処刑予定時刻、午後6時。ドンテ・ドラムの死刑判決の要因は、1998年テキサス州東部スローンという街に住む17歳のニコル・ヤーバー失踪事件の殺人犯として起訴され死刑判決を受けた。
根拠となったのは、同級生の目撃証言と本人の自白によっている。物的証拠は何もない。さらに根強く残る差別意識。ドンテは黒人、ニコルは白人でテキサス東部では今も白人と黒人の交際がタブーの一つとされている。
白人の捜査官や検察官、判事それに白人の陪審員となれば、微妙な感情の揺れは無視できない。
収監されたのち、「俺はヤッていない。自白は強要された」とドンテ・ドラムは言う。9年間のこの叫びも徒労に終わった。午後6時が過ぎて刑務所長の合図でThree Drug Cocktail(スリー・ドラッグ・カクテル)と呼ばれる薬剤の注入が始まる。
初めに強めにした麻酔薬のチオペンタルナトリュームが静脈に注射される。全身麻酔の経験があれば、数を3まで数える間もなく意識がなくなるを知っている筈。二番目に呼吸を止める筋弛緩剤の臭化パンクロニウムを、三番目には心臓を止める塩化カリウムで再び日の目を見ることはない。6時21分死亡が宣告された。
上記のボイエット請願というのは、カンザス州トピーカにあるセント・マークス教会に氷点下の気温の中、薄いジーンズとサマーシャツ、履きこんだ作業ブーツ、薄手のウィンドブレーカーという格好で牧師に面会を求めたのはトラヴィス・ボイエットという男。
そして示唆したのは、ドンテ・ドラムが殺したとされるニコル・ヤーバーの真犯人はこの俺だという。
話を聞いたキース・シュローダー牧師は死刑執行まで二日という状況に成り行き上、テキサス州スローンまで30万キロも走った四駆のスバルにトラヴィス・ボイエットを助手席に乗せて疾走する。
未遂も含めて4件のレイプ事件を起こして刑務所生活を送った男を同乗させたのは、生涯で初めてで最後となるであろう。
そしてドンテの弁護士ロビー・フラックの手によって提出されたのが「ボイエット請願」なのだ。
ドンテ・ドラムが処刑されたあと、ニコルを埋めたという場所から、ニコルの白骨死体が見つかる。鑑定の結果ニコルに間違いないと断定された。さらに目撃証言も、噓だったことが分かる。無実の人間を殺したという司法の失態。
この死刑をめぐって州知事、判事、検事、弁護士、白人、黒人の私利私欲や人種的対立の根深さといったアメリカの抱える負の遺産と死刑問題が提起されている物語といえる。
アメリカの処刑方法は薬殺で日本は絞首刑となっているが、絞首刑を行っている国はウィキペディアによると、韓国、北朝鮮、マレーシア、エジプト、イラン、ヨルダン、イラク・パキスタン、バングラデシュ、シンガポール他となっている。いずれにしても絞首刑は、残酷といえる。
さらに驚く統計がある。2020年の死刑執行数だ。断然、多いのは中国で3000人と言われる。次に多いのはイランで、推定246人となっている。これだけを見ても、いかに中国がトサツ場と化しているかが分かる。恐ろしい国だ。ちなみにアメリカ17人、日本0人。