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読書「告発者The Whistler」ジョン・グリシャム著 2024年11月新潮文庫刊

2024-12-04 13:27:40 | 読書
 司法審査会に告発状が届けられた。女性判事のクローディア・マクドーヴァーの不法な手段で私腹を肥やしているというもの。その背景には広大なインディアン居留地にあるカジノ、ゴルフ場、ショッピングモール、高級マンション群を支配しているマフィアのヴォン・デュボーズの存在がある。

 司法審査会は、調査に権限はあっても捜査の権限はない。従って銃の所持はない。しかし、調査の結果判事を辞めさせることはできる。そして今、調査官のレイシー・ストールツは、予算削減のあおりを食らって公用車廃止で自前の車、トヨタ・プリウスのハンドルを握っていた。衛星ラジオからはソフト・ジャズが流れている。助手席には黒人の大男ヒューゴー・ハッチが眠っている。四人の子持ちで最近生まれた子の夜泣きに悩まされ、睡眠不足を補うのがこの長距離出張なのだ。

 フロリダ州にある観光都市セントオーガスティンのマリーナに着いた。パナバ帽の下からもじゃもじゃとした髪がはみ出し、ショート・パンツにサンダル、派手な花柄のシャツ、太陽の下で長時間過ごす皮膚が赤銅色でパイロット・サングラスをかけた60代の男がうなずいて握手の手を出してきた。この男が告発者の元弁護士のグレッグ・マイヤーズ。

 レイシー・ストールツは34歳の美人。自らも認識していて、それを大いに利用してもいる。とはいっても私生活は良好にコントロースしていて、ベッドへの誘いは簡単には応じない。こういうタイプの女性はツンとしていて、近寄りがたい印象を持つがストーリー展開でも気の利いたユーモアも発していないことから、ジョン・グリシャムの人物造形もツンツン女なのだろう。

 そんなある日、司法審査会の委員長マイクル・ガイスマーに電話があり、カジノに勤務するインディアンと言い情報があるという。そこでレイシーとヒューゴーが出向いた。午後10時56分、情報提供者の男が指示を出してきた。対向車とぎりぎりすれ違える細い道を走ると、ヘッドライトに浮かび上がったのは古びた金属壁の建物だった。車を降りて近づくと影に男がいた。目深にキャップをかぶっていて、顔は見えない。男はいろいろと質問をしてきたが、突然姿を消した。なんの収穫もなかった。

 二人は元の道に戻った。突然強烈はヘッドライトの光を浴びると同時に衝突の衝撃でプリウスは180度回転した。助手席のヒューゴーはシートベルトの故障でフロントガラスを突き破り瀕死の状態。レイシーもエアバッグが作動して顔面に裂傷を負い気を失った。救急搬送の結果、ヒューゴーが死に、レイシーは一命をとりとめる。二人が所持していたスマホが発見されないこととレイシーのおぼろげな記憶の二人の男の存在から、殺人事件とされFBIの手に渡る。

 レイシーに気のあるFBIタラハシー支局特別捜査官アリー・パチェコが精力的に動き始める。上下二巻の文庫本で下巻の方は、淡々とFBIの捜査が進捗する様子が描かれるが、全体に余情も乏しいし迫力も感じなかった。レイシーをもう少し魅力的に描かれればいいかもしれない。当然こういう設定では悪は滅びるのである。

 そしていつも感じることではあるが、ミステリー本とはいいながらそれぞれの国の現実が垣間見られることだ。この本から拾い上げてみると、インディアン居留地のタッパコーラ族の話が出てくるが、今彼らをネイティブアメリカンと呼び人種差別はないよと言いたげだが、ジョン・グリシャムによると、彼ら自身は「インディアン」と自称しているらしい。そりゃそうでしょう500年以上も前にコロンブスが大陸を発見した時、先住民たちを「インディアン」と呼んだんだから、誇り高きインディアンなのだ。

 最近では「自家用車」という言葉を聞かなくなった。一家に一台の車が当たり前になったからかもしれない。とはいっても車によるランク付けはあるように思える。悪徳判事クローディア・マクドーヴァはレクサス、レイシーはプリウスが全壊したので、マツダのハッチバックに買い替えた。かつての公用車がホンダ車だ。ジョン・グリシャムはよほど日本車が好きなのか。

 それとデートでワインを飲む。レイシーとパチェコとの食事もワインが欠かせない。アメリカ人もヨーロッパ人並みになったのか。そんなあれやこれやを考えるというわけ。

 では、気を取り直してスロー・ジャズでも聴きますか。Beegie Adairの「スター・ダスト」なんかは如何でしょう? こういうスローテンポの曲を聴くと、20代か30代に戻って目と口元がキレイな女の子と踊ってみたい気もするが!!!どうぞ想像をたくましくしてお聴きください。

著者ジョン・グリシャムは、1955年生まれ。ミシシッピ州立大学、ミシシッピ大学ロースクールを卒業。’81から’91年まで弁護士として活躍、’84から’90年まではミシシッピ州下院議員もつとめた’89年に「評決のとき」を出版し作家デビュー。著作に「法律事務所」「ペリカン文書」「依頼人」「自白」「危険な弁護士」など多数。

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