黒い大型バイクを操るヴィキー・パイクの背中に抱きつくようにして、後部座席にしがみついていたジョー・タルバートの目から涙が流れ落ちた。ミネソタ州はヘルメット無用だから、ヴィッキーはポニーテールの髪と革ジャンといういで立ち。時速110キロで走るバイクに襲う向かい風は、サングラスの隙間に入り込んで涙を誘発する。
ミネソタ大学を卒業して今はAP通信社の記者をしているジョー・タルバートは、州上院議員トッド・ドビンズのスキャンダルを暴く記事を書いた。ところがドビンズから捏造記事だとして名誉棄損で訴えられている。そんな中で編集長のアリソン・クレスから一枚のプレスリリースが渡される。それにはジョー・タルバートという男が殺されたとある。アリソンは同名のため関連性があると思ったのだろう。確かにあるのだ。母親から聞かされているのは、父親の同じ名前を付けたと。
そして今、ミネソタ州バックリーという町の「スナイプス・ネスト」というバーのバーテンダー、ヴィッキーのバイクにしがみついて犯行現場へ向かっているわけだ。このヴィッキーの笑顔がすばらしく、何度も見たいとジョーは思う。
父親のジョー・タルバートはこの町の嫌われ者No1という男だった。それがこの周辺で一番の資産家の娘ジーニーと結婚していて、そのジーニーが自殺したため600万ドル(約8億4千万円)相当の農地を相続している。その父親が殺されたとなれば、息子のジョー・タルバートにそれが相続される。一時は捕らぬ狸の皮算用さながらに浮き足だったが、事件が解決しないとどうにもならないと冷静になった。
ジョーの恋人ライラはヘネピン郡検察局から、司法試験合格を条件に採用が決まっていて目下猛勉強中。したがってこのバックリーという町には、ジョーが単独で来訪している。保安官事務所のジェブ・ルイス保安官補、町の弁護士ボブ・マレン、父親の兄チャーリーたちと困惑したり、怒りを募らせたり、信頼の絆を構築したり。詮索したりとジョー持ち前の探求心が躍動する。
一方ライラとの関係が、一時冷たい風が吹いたことがある。ヴィッキーのバーで酔った男に肋骨を折られるという事態になったジョー。歩くのもやっとという状態で、ヴィッキーに支えられながらモーテルに届けられた。ヴィッキーがベッドメーキングを終えて、さらりとジョーにキスしてきた。痛みに耐えていたジョーは拒否することもできない。柔らかくて暖かい唇は、一刻痛さを忘れもっと求めたくなったときドアにノックの音。ヴィッキーがドアを開けた向こうにライラが立っていた。
馬鹿正直にキスを否定しなかったのでライラの逆鱗に触れた。青春時代というものは多くの過ちを犯すものだ。ただ一つ曲げてはいけないもの、ジョーのように誠実であるべきなのだ。本作は青春ロマンス・ミステリーとでも言っておこうか。ジョーと母親との相互理解が進むという涙の場面もあって、ティッシュかハンカチを用意しておいた方がよさそうだ。
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