猫とマンガとゴルフの日々

好きな物を題名に↑ 最近はゴルフとグルメお出かけ主体に。以前は1960年~70代マンガを紹介していました。ネタバレ有り。

COMの中の女性作家 ⑥ 市川 ジュン 「星の国々」

2007年10月22日 14時04分50秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
 COM 1968年12月号 まんが予備校 児童まんがコース 「星の国々」 24P 600点満点中 355点を取ってトップに部分が掲載されています。

 最近刊行の女性向けミステリーまんが雑誌 (ミステリーサラ グリーンアロー出版社 10/13 創刊) の表紙に 市川 ジュン氏 のお名前を見つけました。20年くらい前までは OFFICE YOU などに描かれていましたが、最近はミステリー傾向のものを描かれているんですね。サクラミステリーが7月で休刊後、この ミステリーサラ で「鬼国幻想」の続きを描いてらっしゃるようです。


ウィキペディア(Wikipedia)より 市川ジュン


市川ジュンさんの私設ファンサイト → 陽の末裔


 私この方の作品はあんまり知らないのですが、なになに女性の側から見た歴史にスポットを当て、平安から近代まで…とな、陽の末裔(1985~1989)などの長編を読んでみようかな~。1972年のデビューから現在まで途切れず描かれている、大変息の長いまんが家さんです。

 さて、例によってCOMで見たな、と探してみると有りました、1968年にまんが予備校に投稿されていますね。19歳の時で、絵柄は石森タッチと水野タッチが混在する可愛らしいものです。

星の国々 あらすじ

 白樺の若木と大きな切り株のある 「小鹿たちの家」 と呼ぶ広場で、ミワッペや襄 (ジョー) たちは 「おはなしの日」 を決めて集まってはメルヘンを話していた。次々に語られるファンタジックなお話。
 そこには子供達に混ざって 「星々の野の花を売る花売りの老人」 も来て耳を傾けている。ある日その不思議な老人は、ミワッペの語る 「遠い星の国の話」 は正確じゃよ、と話しかける。少女の語るおとぎ話がラストで現実になるのだ。

 指導の 藤子不二雄氏 (当時は分かれていない) は、優しい神経の配りがあって、非常に楽しい作品だ、ストーリー作りに丹念なところが良い、と言ってます。又、話の中に出てくる星の国々の部分は夢があるが、もう少し星の国というイメージを盛り込んで欲しかった、とも。

 全ページ出ていないので私も他の部分は想像するだけですが、メルヘンだけどそれだけで終わっていないところがいいようです。

 市川氏については詳しくないので、詳しい方・ファンの方いらしたら、ぜひコメントで教えて欲しいです。お奨めの作品名など、お待ちしています。

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COMの中の矢代まさこ ⑤ 

2007年10月09日 09時27分41秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
       1968年10月号 短編シリーズ ⑤ クモの糸の話が3篇。

① ある日クモは考えた。「たいていの大きな家は大きな権力を現す。」 俺もでっかい巣を張れば、仲間のクモにでっかい顔が出来るってもんだ。
 頑張って、頑張って、糸をはき続け、体の一部まで糸になるまではき続け、目だけが残ったクモは後悔の涙をこぼし、目も糸になった後には、涙の粒のかかった大きな大きな巣ばかりがあった。

 主のいないクモの巣は、そんなストーリーを作らせるのです。

② 貧乏な家の少女と飼い犬のポチはきれいな金色と黒のクモを見つけます。近所のおばさんに名前を聞いたら 「女郎グモ」 を 「女王グモ」 と聞き間違え、ずっとそう思っています。
 転校生のキラキラした美少女の倉田さん、女王グモのように綺麗だとあこがれる少女。でもドキドキしながらそばに寄ったら、自分の汚い格好のせいでプィッとされてしまった。家に帰っても両親は相変わらず喧嘩ばかり。
 涙を流しながら、女王グモになりたい ! と叫ぶ少女。その前に金色のクモの糸が。。。それを伝って行き、ブランコやトランポリンのように遊んでみる。ポチは下の方で吠えるけど、なんて楽しいの ! 
 いつのまにか少女は女王グモになって大きな巣の中心に居た。ポチはその下で悲しそうに泣いている。

③ パリ画壇今年最大の新人と騒がれだしたジャンには、日本人のモデル、愛する圭子が居た。貧乏なジャンのアトリエは、壊れたガラスも直せないほどだったが、圭子を見ているとすべてを忘れ、夢見ごこちで絵を仕上げることが出来るのだ。
 しかし、人気が出て新聞社の取材だのTVのインタビューだと忙しくなるにつれ、ジャンはアトリエを綺麗にし始め、助手でも置かなきゃと言い出す。
 圭子はジャンに今貴方はどこに居るの、と質問する。ジャンは 「アトリエに決まっているじゃない」 と言う。

 圭子は 「貴方を夢の中へ誘えなくなってしまった」 と言って姿を消す。必死に探し、追いついたジャンに圭子は
 「なぜってジャン、以前のあなたなら絵を描いている時、そよ風と虹色の光の中でキャンバスに向かっていると答えてくださったでしょう ? 」
 「今の貴方は絵を描きながら画廊の主人の顔を思い浮かべ、画壇での貴方の人気について考えるようになった。」
ジャンは言う
 「たった一言の失言じゃないか」
 「たった一言のためにクモの糸が切れて地獄にへ転がり落ちた罪人の物語 (ご存知芥川龍之介のクモの糸ですね)を知っている ? ジャン」

 ちょ、ちょっと待った~今の私ならジャンの味方しちゃうね。かすみを食っては生きられません。愛する圭子にパンやスープを食べさせ、アトリエの壁を塗り替え綺麗にし、ガラスをはめて冬に備え、いつ又売れなくなるやも知れぬ自分の絵を売れるときに売って、蓄えようとするのは当然と言えませんか。趣味でやっているならともかく、生計としているなら作家や画家も生きている間は人気商売でしょう。
 もっと言うなら、夢を見させてよい作品を描かせたら、それをフォローする役割の人間 (パトロンでも画商でも) がいないと画家も飢え死にしちゃうわ。 フィンセント・ファン・ゴッホ に対する弟のテオドールのように。逃げてどうする、圭子よ。これは当時の女性の生き方の限界か ? 40年経つと考え方もとても変わって来ている。


 これは寓話だから極端だけど、夢と現実生活のバランスは難しい。

 お笑いやタレントさんも程ほどでいいやと思っていたらどの世界でも物にならない。一度売れ出したら廻りがほっとかないから行くところまで行かないとブームは終わらない。さて、本当の実力者は一度上っていったん落ち着くか、落っこちてから、もう一度のし上がってくる。じわじわと売れていって、というのが一番いいのかも知れないけど、一回は売れないと自分のやりたいことのチャンスも来ないからね~。

 ああ、あたしは一般お局OL、人気商売でなくて良かった…。いえ、負け惜しみでは。
 それにしても、まんが読んでもあれこれいろんな考えが浮かんで本体から離れた記事になってしまうのよね~。ごめんあそばせ。
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COMの中の女性作家 ⑤ もりた じゅん 「雪の夜」

2007年08月15日 16時40分16秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
 COM 1968年1月新年特別号 ぐら・こん まんが予備校の中の青春実験まんがコース 

 以前記事を書いた → もりた じゅん先生について話しましょうよ。 もりた じゅん氏 19歳の時のCOMへの投稿作品 600点満点のうち325点を取っています。佳作の中の次点。雪の夜(よ)という題名で20ページの作品。

 あらすじ

 貧しい恋人同士の一人の青年はショーウィンドーの中のマネキンが着ているコートを彼女に着せてあげたいと思う。しかしお金のない青年は毎日のようにマネキンが着ているコートをショーウィンドーの前で眺めるだけだった。
 
 雪の夜外出から帰った青年は部屋に見知らぬ少女がいるのを見つけて問いただす。あっその洋服は ! 少女はウィンドーの中のマネキン人形だった。マネキンは青年が毎日見に来てくれるのを、自分に対する愛情と錯覚し、自分も青年を愛するようになっていたのだ。しかし片思いだと知ったマネキンは泣きながら走ってくる自動車に身を躍らせてしまう。


 選者の 峠あかね氏 は (以下同本より引用させていただきます。)

 貧しい青年が店頭のコートを欲しがる前半から、青年に対するマネキンの恋へと発展する後半に、見事な盛り上がりがあるし、結末もいい。
 画面が全体に白っぽくなりすぎているのがさみしい


 と評しています。

 3Pしか載っていないのですが、ラストは恋人たちのほのぼのタッチで終わっているようです。マネキンが自殺 (?) してからの展開はどうなって行ったのでしょうか ? 。ちょっと気になるところ。
 絵柄はいろいろな人が混ざり、いまだ自分の絵柄は確立されていない時期のようですが、中でも一番 もりた氏 らしいラインが出ているのが上の写真で、青年の顔は もりた氏の 線ですね~。
 それにこの頃からひらがなの もりた じゅん 名で投稿していて、ペンネームを決めているのですね。この年の春には りぼん でデビューされてます。

 なお、この時の佳作1番は600点満点中330点を取った 神江(こうえ) 里見氏 (作品 弐十手物語、虎視眈々、下苅り半次郎、他多数) の 「ある日の十七才」 。高校生の淡い恋愛ものですが、絵は達者で後年のタッチがそこここに出ています。

 又、ステップコースというテーマが決まって、それに沿って膨らませて作品を描くコースの (この回は えんとつ) 佳作の中には 阿部 律子 の文字が。絵が小さくてはっきりしないのですが、あべ りつこ さんだと思うのですが。
 最近COMの投稿作品の中に後のまんが家さんのお名前を探すのが楽しくて。そうよね~、当時は皆さんアマチュア、どなたが後にまんが家になるかなんて皆目分かりませんでしたが、今見直すといっぱいいらっしゃいます。
 
 流石にそういう方々は当時から上手くて、そして皆さん絵柄が新しいのです。私も見ていて、良いお話でも絵柄が古臭いとそれだけで面白み半減でしたね。まんがはやはりお話だけじゃないですよね
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COMの中の女性作家 ④ もとやま 礼子 「白い影」

2007年07月23日 10時03分09秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
   COM 1968年9月号 第12回月例新人入選作 <青春・実験まんがコース>            
            写り悪いし、私の指が写っちゃってますが (笑) 


 あらすじ 

 江戸時代、捕縛され血まみれの着物を着た若い女が引き立てられていく。女は呆然と前を見つめ、口を半開きにして見物人の前を歩いていく。そこから女の回想に入っていく。
 
 貧しい漁村、幼い男女が仲良くたわむれている姿。女の子が転んで泣くと父親が出てきて、男の子のせいだと言わんばかりに男の子を殴り女の子を抱いて行ってしまう。貧しいながらも女の子は大事にされているらしい。
 十代後半だろうか成長した二人。男は漁師で網の修理をしている。手をケガした男に女が布切れを巻いてあげる。思春期の二人は口付けを交わすが、女は怖くなってその場を立ち去ってしまう。

 女の父親が死んだらしい。後には泣く母親と幼い弟妹。女は50両の金で売られていくことになった。窓から青ざめた顔でそれをみる男。旅の支度をし、人買いに連れられ漁村を出発する女。途中竹林で男が待っていて、つかの間抱き合うが人買いに手をつかまれ、無理やり引き離されてしまう。

 時が流れ、宿場らしい町の一角、胸をはだけ髪も乱した女が酔客の相手をしている。カラのお銚子を持って階下に下りていくとそこには・・・・。青年となった男が自分を探して会いに来ていた。嬉しそうな男。しかし、女は突然のことに声も出ないようだ。

 突然かんざしを手に男の首に切りつける女、飛ぶ鮮血。なぜだ ?! という目を向けて、抱きしめようと女の体にすがる男にもう一度躊躇なくかんざしを振りかざす女。
 女は男に会えた嬉しさよりも、今の自分の姿をみられた恥ずかしさの方が勝ってしまったのか ? 

 冒頭の場面に戻り、ふらふらとしゃがみこんでしまう女。見上げた目の中には、やっと一滴の光るものが見えただけだった。


 もとやま氏はこれ以前にもCOMのこのコーナーで佳作に入っていたりしますが、この作品は後にCOMに発表されたものも含めて、一番印象に残っていて、一番上手いと感じた作品です。理由は以下の4つ。

① まず選者の 峠 あかね氏 も言っているように、着物の柄のタイトルバックから女の歩く姿、そこから女の回想に入っていく導入部が作品の世界に自然に入って行け、達者だ。

② に 全編当時で言う 「サイレントまんが」 で一言のセリフも説明文も入っていない事。

③ は 主人公二人の他の人物は黒いシルエットで表されていて、徹底して二人に焦点が当たっていること。

④ はラストに意外性があること。
 金持ちになった男が迎えに来るとか、貧乏でも上手く手に手をとって苦界から女を助け出した、とかのハッピーエンドではありきたりで、短編としては面白みがない。

 思ってもいなかった事態に遭遇した時、人はどのような行動をとるか。
 この女は酔客の相手をする仕事、夜の世界に生きることに慣れた自分を幼馴染の好きな男には死んでも見られたくなかったに違いない。こんな自分には逢いに来て欲しくなかった。
 でも、見られてしまったからには男を殺し、ひいては自分の身の破滅になろうとも悔いはない。綺麗な思い出のまま二人を滅ぼすのは、形を変えた心中と同じなのだ。封建社会に生きる女にとってそれは当たり前のことだったのか、はたまたこの悲劇は女の情念が深すぎたためか ? 

 読み終えて短編ながら読者も呆然と考えをめぐらす佳作です。

 
 もとやま氏はその後少女漫画誌にデビューされ、別冊少女コミックの 「巴御前」 ものや「湯けむりねえちゃん」「先生にしつも~ん」 などの作品で活躍されました。一時レディコミックスにも描いていたような・・・。今はどうされているんだろう。

 尚、昭和53年(1978)4月28日発行の 「もとやま 礼子の世界 白い影」 という、多分ムック本 (未見) に 矢代 まさこ氏 が 「もとやまサンはもてやまし礼子です」 という作品を描いているので、矢代氏も もとやま氏 及び、この作品のファンなのでしょう。
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平田 弘史氏 の4コママンガ

2007年07月06日 09時12分34秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
 あ~ら めずらしや、平田 弘史氏の4コマギャグマンガです。COM 昭和43年(1968)9月号掲載


 拙ブログ7月2日の記事 → COMの中の あすなひろし ① 「美女ありき」

 の中で平田 弘史氏もギャグマンガ載せてるよ、と書いたら ちゃととさん にリクエストされましたので早速載せます。と言っても見開き2ページで横長の4コママンガ2編のみなので、あらすじもなにも写真も1枚載せるのがやっと、上の写真だけでなんとなく分かっていただけるでしょうか。

 「粉微塵 ふんびじん 編 」 
 
 上の写真はその4コマ目です。お分かりのように、にらみ合う武士二人斬り合いの後、見事な剣捌きで負けた方は粉々どころかチリのように……んなわけないでしょ ! という作品。

 「居合い術 編」

 にらみ合う武士ふたり、まったく同じコマがもうひとコマ、3コマ目はわずかに二人の足が動いた気配がして、真ん中に葉っぱがひらり、4コマ目では二人の首が同時に落ちて・・・きゃ~。

 劇画調の流麗な画風でこんなの描かれると、ギャグというよりシュールでミステリーでホラーな作品ですね~。
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COMの中の あすな ひろし ① 「美女ありき」

2007年07月02日 17時25分13秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
            COM 昭和43年(1968)9月号掲載

 まずは、2001年3月に惜しまれつつ亡くなった 漫画家あすなひろし氏のディープなサイトをご紹介。 シネマるマンガぁ?byちゃとと (左にブックマーク有り) のちゃととさんに教えていただき、時々読みに行ってます。エッセイ・プロの方の中の みなもと太郎氏 のインタビューなんて、ああ深すぎる  

     あすな ひろし 追悼サイト


こちらでは作品も読めますので、ぜひぜひ行ってその才能の片鱗をご覧あれ。私大好きでした。      
             ↓

     あすなひろし傑作短編集

 

 なんとあすな ひろし先生、COMに2度目の掲載はギャグマンガなんですよ~~ ストーリーまんが家によるギャグまんが集 ② の中です。

 正調あすな節・大悲劇 と銘うたれてます。


 あらすじ

 産院でそわそわ子供が生まれるのを待つ男。

おぎゃあ

 元気な女の赤ちゃん誕生  おっぱいを元気に飲むあかんぼ。ちゅっちゅくちゅっちゅく………。
 もういいでしょ ? 母が言っても聞かずに、ちゅっちゅくちゅっちゅく………。母はげっそり、ばったり。

父 おまえ !


 誕生の日、母死す。美女と名づけられ、スクスクと育ちすぎ美しくもならず…。

 少女時代は車にぶつけられても車が壊れ、ちょうちょを取ろうと木をなぎ倒し、バカ力発揮はこの時代から。

 そんな君が ぼく好きなんです。

 と、恋人登場。そんなことおっしゃって、と振り払ったら投げ倒された恋人すでに即死。余った力で電柱を倒し、恋人の上に…。それでも足りずにトラックを転げさせた彼女、悲観して3日後 華厳の滝 に身を投げましたとさ。

                                  


 そーんなに内容にゲラゲラというわけではないのですが、あすな氏のギャグ調の絵柄は可愛いのですよ~。もっとこの絵でいろいろ描いて頂きたかったです。

 他には、望月 三起也氏、佐藤 まさあき氏、平田 弘史氏が載せていますが、平田氏のが完成されていて面白かったです。
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COMの中の 矢代 まさこ ④

2007年06月27日 09時26分11秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
 COM 1968年(昭和43年)9月号 矢代 まさこ 短編シリーズ ④ 「わが名はボケ猫」


 頭は、マンガ版 「わが輩は猫である」 的に始まる。くしゃみ先生の飼い猫だったわが輩とは違って、ボケ猫はのら猫だが、近所の人たちに適当にかまわれ、ポリバケツのフタをあけてはゴミをあさって生きている。猫の目から見た人間の暮らしぶりが少し辛らつに綴られるところは 「わが輩は猫である」 にそっくりだ。

 町内の面々は、子供の生まれそうな家、捨て犬を拾った若夫婦、駆け出し詩人の若者、愛犬のことしか頭に無いおじいちゃん、などなど様々だ。
 これといった事件も無く過ごしていたのに、来月からゴミ収集がポリバケツからパック式になってボケ猫がエサを取れなくなりそうだ。これは大変、対策を考えなくちゃ。

 捨て犬からせっかく飼われることになった子犬がジステンパーで死んだ夜、急性肺炎の赤ちゃんは命を拾い、早い朝が始まる…。ボケはいよいよパック収集の波及していない地区への引越しを決意する。人間界はいつもの朝を迎えたかに見えたがその時 

 地震だ ! こいつはでかいぞ!

 屋根から地面に飛び降りて後は飛び跳ねるボケ猫。人間達も醜態を晒している。それを見て、別世界にいるはずの連中と自分と同じ様に感じていることを知って嬉しいと思うボケ猫。このまんまの状態がまだしばらく続けばいい。ボケ猫はみんなと一緒に悲鳴をあげたい ! しかしすぐに揺れは収まり、何事も無かったように日常が始まる。パック入りのゴミを横目に天涯孤独のボケは旅立っていった。

 ほのぼのタッチで描きながら、「わが輩は猫である」 と同じく人間界をじっと観察している。でも大きな批判はしていない。淡々と描写して皆さん何か感じてくださればそれで結構、という作者の視線を感じる作品。

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COMの中の 矢代 まさこ ③ 「歌うたう 里子」

2007年06月11日 08時54分18秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
           COM 1968年8月号掲載 矢代 まさこ短編シリーズ ③


 歌をわすれたカナリヤは~うしろのおやまにすてましょか~
 赤いくつは~いてた~

 海辺の町、海岸で白痴の里子が歌ってる。それを見ている女の子。新しい人生を切り開こうと東京へ出て行くのだ。町を出て1年、いまだに彼女は東京の夕焼けがくすんでいると思う。だが、東京で出来た友人に 「チャンスのようよ」 と言われて見ると、こちらをじっと見ている男性がいる。彼とデートする彼女。
 しかし、彼は友人達にカンパさせたお金でデートに誘い、その顛末を面白おかしく仲間に報告していた。田舎者と侮られた彼女は、友人だと思っていた仲間にだまされたのだ。里子の歌を思い出す彼女・・・。

 同じ海岸、里子が歌ってる。一組の恋人達。女性の方はお金持ちの養女になりにこの町を出て行くらしい。男は自分が忘れられるのではないかとちょっぴり心配だ。1年後、案の定一通の手紙も来ない女を思い、船の上で 「おおーい」 と叫ぶ男。里子が歌ってる。

 劇団の駆け出しの女。ぐうぜん大役のお鉢が廻ってきて、頑張りますと皆の前で宣言する。自分なりに頑張ったのだろうが、しかし評論家の批評はひどいものだった。友人は慰めてくれるが、本当に心込めて慰めているのかは分からない。
 
 海辺の町に来た劇団の女、里子の歌を聞く。そこには東京から戻っただまされ女、彼女に振られた男、もう一人作品が作れなくなった作家の3人が海辺で里子の歌を聞いていた。

 里子は死んだカナリアを追って海に入ろうとし、作家に助けられる。助けられても里子はただ歌うだけだ。だまされた女がその子は白痴だものと言う。
 
 突然4人を前に里子が話し出す。

 「あれは…カナリアの歌ではありません。歌をわすれたカナリアは疲れた長距離ランナーの、行き詰った旅人の、つくれなくなった作家のあせりとグチと切なさがうずまいて結晶して出来上がった歌。」
 「周囲の期待に沿わなかった劇団の女は首を切られて惨めにぶら下がってる、てるてる坊主」

 里子の歌はばかにしてはいけません。里子の歌を聞き流してはなりません。里子は歌の心を、深さを知っている。

 「そんなはずないわ 何も分かってないはずよ。白痴のはずよ!」

だけど里子は歌うたう。十年たってもこの日のままの五つの心で歌うたう。まるでなにもしらない顔で、里子は 〔俗人〕 どもをあざ笑う…。


 最後に作者ご挨拶があります。

 矢代 まさこです。こんにちわ。COMでわりかし好きなコトさせてもらっているうちに自分のマンガのいけないとこがマスマスわかってきてマスマスかんこちになってマス。

 はーっ、これ要約するの時間掛かりました。実は3週間くらいCOMを枕元に置きっぱなし。他にいろいろ好みの作品を読んじゃっていた、てのも有りましたが、難しいと言うより気が重いと言うか。まだまだ矢代作品はCOMの中にあるのに全部紹介できるのだろうか・・・不安になってきたぞ。

 
 私の頭の中では、昨日雷のために出来なくなった薄暮ゴルフの帰り道聞いていた、甲斐バンドの歌う 「テレフォン・ノイローゼ」 がぐるぐるグルグル廻っています。

出逢って一月目どれほど愛してるって聞くと

4週間分よってそっけなく・・・・


 追伸 今 「トーマの心臓」 書いてます~。あしたアップします~。長くなりそうです~
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COMの中の女性作家 ③ やまだ 紫 「ひだり手の・・・」

2007年05月22日 15時35分47秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
「ひだり手の・・・」 COM 昭和44年(1969)5月号に(青春-実験まんがコース佳作第1位)全ページフルサイズで掲載。

 まず、関連サイト紹介を。

  フリー百科辞典Wikipedia・やまだ紫の項目


 やまだ 紫先生の公式サイト → やまねこねっと


 やまだ先生のパートナーである元ガロ副編集長の白取氏のブログ → 白取特急検車場〔闘病バージョン〕


 2年前ブログを始めた頃、いろいろとマンガ関係のサイトをあさっていてまず白取氏のサイトを見つけ、昔話なども楽しく拝見していました。突然白取氏が発病された後もやまだ氏の近況ともどもずっと愛読しているブログです。こちらのブログはいろいろあって、現在トラバとコメントを受け付けていません。
 最近、「述懐・COMとガロの時代」 という私のブログにぴったりな不定期連載を始められ、興味深く読んでいます。ちょうど5月9日付けの記事がやまだ 紫氏のCOMとの出会いのくだりがつづられていて懐かしかったので、自分もやまだ氏のデビュー前作品を引っ張り出してきました。
 

 「ひだり手の・・・」

 作品アラスジとしては特に大きな起伏のあるものではなく、恋人との結婚に悩んでいるように見える姉と、姉を思いやる思春期の妹、それらを見つめる母親、の感情を追っていくモノローグ中心の作品です。こういった作品はCOMには今までなかったのでちょっと新鮮です。

 題名は、妹が左手の爪を自分で上手く切れなくて、母は忙しいし姉に切ってもらおうと帰りを待っていたが、姉は恋人と一緒に帰ってきてなにやら揉めている・・・という場面から始まるからです。
 私にも姉はいますがここに描かれている様な姉思いの妹ではないので、妹の感情は当時は深すぎて分からなかった。今読むと当時と違うものが見えて来るので不思議だな。

 講評は個人の名前がなく、「編集部」 となっています。

 この作品のモチーフは一篇の詩である。やまださんの持つ繊細な感受性が・・・
 
 前半はやまだ氏の感覚を褒め、後半はこの作品の問題点を挙げています。いわく、たんたんと描いているのでもう一つ読者を引き込む何ものかに欠ける。次に妹の心、詩的なナレーションは中盤の姉と恋人の話し合いの場面にはそぐわない。個性はあるが新しくない絵柄、デッサン力の不足等指摘しています。しかし、将来は頼もしい、もう一つ勉強して欲しいとも言っています。

 最近のやまだ氏の作品を読んでいないのでなんとも言えないのですが、私のやまだ氏の絵柄の印象はこの時のままです。上のHPなどを見ると大分変わられているようですが、とつとつとしたようなこの絵柄が私は良いと思うのです。前からなにか絵柄が似ているな、と思っていた 近藤 ようこ氏 はやまだ氏のアシスタントをしてたのですね。
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COMの中の 矢代 まさこ ② 「笑いかわせみにいえない話」

2007年05月18日 10時14分15秒 | まんがエリートのための雑誌 COM
  矢代 まさこ短編シリーズ ② 「笑いかわせみにいえない話」 小さな声で読んでください。(注釈つき)


 作者の自伝的及び当時の生活をつづったような作品。


あらすじ

 主人公が必死で仕事 (まんが家らしい) をしていると、頭ン中のどこだか、耳の底のどのへんだかで、笑いかわせみの声が聞こえてくる。するとこの世の全てがしらけてしまってやる気を失う主人公。なんとか出来上がった作品を各社の編集者に見せている図。いろいろ言われて描き直してみたりするが、いよいよ行き詰ってしまい、ついに精神科に行ってみた。

 脳波を調べる機械やら、ロールシャッハテストなどやらされ、医者は次に生い立ちを話せと言う。

 絵を描くのが好きでしてね、ずっと描いていたんですが、高校生の頃か (制服を着ているので) 新人マンガ家募集!!に応募してみた。見事入選し、天にも昇る心地で教師の家に報告に行ったり親を納得させたりする。本が出来て送られてくると抱いて寝るほど嬉しかった。
 その後アイデアやストーリーが次々と浮かんでまんが家生活は順調だったが、才能がそんなになかったのかどうか、2年もするとしんどくなって来た。もっともその頃はまだ笑いかわせみの笑い声が聞こえなかっただけましだった。

ただのスランプですかね、先生。

それはもっと一流が使う言葉と違うけ?

ところであんた、生い立ちを聞くとたしか女の子じゃな

 そういえば幼い時から上京する頃までは女の子の姿。しかし今はどう見ても男の姿で描かれている。

はて、いつから男になったのか

 自問自答する主人公。女を捨てて仕事をしてきたと言うことを表現しているものか?

 子供の頃に戻りたいと遊園地に出かけた主人公は 鏡のお城に入ります。ひとり静かに自分をみつめるにはもってこい、と一大ロマンの構想を練り始めます。しかし、おかしいよねこのマンガ・・・と考え始めるとキリがなくなり、笑ったり落ち込んだり、暗い部屋の中でふと気づくとあちらにもこちらにも同じように笑って泣いて悩んでいる自分の姿が・・・・・。

 はて、本物の僕 (?) はどれだろ ? あっちでもこっちでも同じ事言ってるよ。それからの自分は何をしても自分の姿を目の当たりに見せ付けられ、露骨な恥ずかしさを覚え、何もかもが空々しく白けてしまい、笑いかわせみの笑い声は鏡に映る自分自身の笑い声だったかと・・・。 (怖わ~)
 その人、それっきりその部屋から出てこなかったんだそうです。

 けど、このことは笑いかわせみに内緒にしといてくださいよ。聞かせるとケララケララとそりゃあもう、うるさいんだから。

 下手なホラーより、創作する全ての人に怖い話。自分の作品に自信が持てなくなり、あれこれ悩みぐるぐるしているうちに思考が停止して・・・ 逃げ出したくもなります。引きこもりにもなります。無から何かを創り出す人たちはみんなこんな苦しみを味わっているのでしょうか。
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