二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「キリストの勝利」(「ローマ人の物語」第38巻新潮文庫)塩野七生 レビュー

2015年02月01日 | 塩野七生
「キリストの勝利」3分冊を読みおえ、「ローマ世界の終焉」に手をつけたので、忘れないうちに、急ぎ感想を書いておこう。
わたしはこのレビューを、mixiの“レビュー”と、blogの双方に掲載している。
さきほど思いたって、blog「二草庵摘録」に塩野七生のカテゴリーを追加し、塩野さんの著作に関する感想を、そこに集めた。
あらためて「二草庵」のレビューを読み直してみたら、「小説(国内)」と「歴史・民族」の二つのカテゴリーにまたがってアップしてあった。
塩野さんは歴史家なのか、小説家なのか? わたしがよくいく大型書店では、すべて“女性作家”の棚に分類されている。
塩野さんは、そういう既成の枠にはとらわれない存在だという声を聞く。わたしもそれに大賛成。
もうひとつ、塩野さんの「七生」という素晴らしいお名前につてだが、ご本人が「7月7日」生まれだからなんです、とどこかに書いておられる。

小説家ではない。
歴史家でもない。
日本語には著述家という便利なことばがある。しかしこの著述家ということばも、座りがいいとはいえないだろう。
したがって、塩野さんは「塩野七生」というカテゴリーなのである。

さて「キリストの勝利」3冊である。
文庫本として刊行されるにあたって、彼女はどこにでも持ち歩けるポケットサイズにこだわったので、文庫本1冊の厚みは200ページ前後。新潮文庫「ローマ人の物語」は、そのため全43冊にもおよぶ。
彼女はなぜ、こんな無謀なくわだてに挑むことになったのだろうか?
それはそのまま、なぜイタリアなのか、地中海世界なのか・・・という疑問にゆきつく。
「ローマ人の物語」は、塩野七生のライフワーク。作家としてもっとも脂がのった時期に、15年もの歳月をかけて取り組み、一千数百万部というロングセラーになっている。

「キリストの勝利」は、文庫本では38、39、40巻にわたっている。
今回再読するにあたって、わたしは「すべての道はローマに通ず」から手に取った。
そして、あとわずか「ローマ世界の終焉」を残すのみとなった。「なんだか読みおえてしまうのが惜しい」という気分を、わたしは久々に味わっている。また「ローマは一日にしてならず」へ戻って、読み返してみようか・・・と考えなくもない。わたしのような初老の男をこれほど夢中にさせる本など、そうそうあるものではないだろう。

《紀元337年、大帝コンスタンティヌスがついに没する。死後は帝国を五分し、三人の息子と二人の甥に分割統治させると公表していた。だがすぐさま甥たちが粛清され、息子たちも内戦に突入する。最後に一人残り、大帝のキリスト教振興の遺志を引き継いだのは、次男コンスタンティウス。そして副帝として登場したのが、後に背教者と呼ばれる、ユリアヌスであった。》(第39巻表紙裏より)
《若き副帝ユリアヌスは、前線での活躍で将兵や民衆の心を掴んでゆく。コンスタンティウスは討伐に向かうが突然病に倒れ、紀元361年、ユリアヌスはついに皇帝となる。登位の後は先帝たちの定めたキリスト教会優遇策を全廃。ローマ帝国をかつて支えた精神の再興を目指し、伝統的な多神教を擁護した。この改革は既得権層から強硬な反対に遭うが、ユリアヌスは改革を次々と断行していくのだった――。》(第39巻表紙裏より)

キリスト者ではない塩野さんはユリアヌスに大いなる共感を寄せている。ユリアヌスの早すぎる思いがけない死を叙する文章に、万感の思いがこもっている。コンスタンティヌスがレールを敷き、アンブロシウスがいわば「古代ローマ」の最後の息の根をとめる。
ローマ帝国の隆盛期、繁栄期と較べると、読み物としてはおもしろさに欠ける。そのためだろうか、以前ハードカバーで読んだときの印象は、ほとんどわたしの頭から消え去っている。
塩野さんは、キリスト教がローマ世界の唯一の宗教、国教となるところで、筆をおいてもよかったのではないか。第39巻(中)の最後に、彼女がふたたび、ユリアヌスの像(写真)を掲げているのは意味がある。背教者ユリアヌスと呼ばれたこの皇帝こそ、ギリシア・ローマの文明と精神を受けついだ、最後の皇帝であったことを、わたしもまた見届ける。

そして地中海世界は一神教の司祭たちが支配する“暗黒の”中世へと向かう。
わたしはただ、ただ固唾を呑むようにして、塩野さんにつれられ、ローマ世界の衰亡を見守るしかない。

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