★ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45419
実現不能なヨーロッパの夢 文/ポール・クルーグマン
ユーロの危機は前もって予測されていた
ヨーロッパからのニュースにはやや落ち着きが見られるものの、基本的には相変わらずひどい状況だ。
ギリシャは、大恐慌よりさらに深刻なスランプに陥っており、回復の希望は全く見いだせない。経済がようやく上向きになってきたスペインは、成功談として称賛されているが、失業率は相変わらず22%だ。
さらに、ヨーロッパ大陸北部は、弧を描く形の経済低迷地帯となっている。フィンランドは南ヨーロッパと匹敵するくらい不景気だし、デンマークとオランダの経済も最悪な状態だ。
なぜ、こんな悲惨な状態になってしまったのだろうか――。
❶ 独善的な政治家たちが計算と歴史の教訓を無視すると、こういうことが起こる、というのがその答えだ。
ギリシャや他の国の左派のことを言っているのではない。ベルリン、パリ、そしてブリュッセルにいる超エリートたちのことを言っているのだ。
❷ 彼らは四半世紀の間、空論の経済学に基づいてヨーロッパを運営しようとしてきた。
経済をよく知らない人や、不都合な質問を避ける人にとって、ヨーロッパに統一通貨を確立するというのは素晴らしい考えのように聞こえた。統一通貨があれば国境をまたぐビジネスがやりやすくなるし、それはパワフルな統一のシンボルにもなるというわけだ。
そのユーロが最終的に引き起こしてしまう大きな問題を、誰が予想できただろうか。
実際には、予想できた人はたくさんいた。
2010年1月、ヨーロッパの2人の経済学者が「It Can't Happen, It's a Bad Idea, It Won't Last」という題の記事を書いた。内容は、ユーロは大きな問題をもたらすと警告したアメリカの経済学者たちをあざ笑うものだった。
ところが、図らずも不滅の価値を持つ記事となってしまった。この記事を執筆しているまさににその時からすでに、これらの悲惨な結末への警告が、すべて現実のものとなり始めていたからだ。そして、誤った考えをもつ悲観主義者として、この記事が「恥の殿堂」入りリストで名前を挙げた多くの経済学者たちは、逆に「優等生名簿」に載ることになった。彼らこそが、正しい主張をした人々だったのだ。
❸ これらユーロ懐疑論者たちが犯した唯一の大きな間違いは、単一通貨が及ぼすダメージの大きさを過小評価したことだった。
反対意見はすべて一蹴された
重要な点は、最初から予測はそれほど難しくなかったということだ。つまり、政治的統合はしないが、通貨は統合するというプロジェクトの成功は、極めて疑わしいものだったということだ。
であれば、なぜヨーロッパは、通貨の統合を進めたのだろうか。
私が思うに、ユーロというアイデアがあまりにも耳に快かったから、というのが主な理由ではないだろうか。
つまり、そこには先見の明があり、ヨーロッパ的な考え方で、まさにダボス会議で講演するような人々にアピールするタイプのアイデアだからだ。そういう人たちは、自分たちの華やかなビジョンをバッドアイデアとする間抜けな経済学者の話を、聞きたくなかったのだろう。
実際に、間もなくしてヨーロッパのエリートたちの間では、通貨プロジェクトに反対を唱えることが非常に難しくなってしまった。私は、1990年代初めの頃の空気をよく覚えている。誰かがユーロが望ましいかどうかについて疑問を投げると、その人はうまく議論から締め出されてしまうのだった。
さらにアメリカ人が疑問を挟むと、必ず、ヨーロッパに敵対心をもっているとか、ドルの「法外な特権」を維持したいという下心があるに違いないと非難された。
そしてユーロが導入された。導入後10年間は、大きな経済バブルが根本的問題を覆い隠していた。しかし前述したように、現在は懐疑者たちが恐れたことのすべてが現実になった。
話はそれで終わりではない。予想された、そして予想できたユーロに関する重圧が、現実のものとなり始めた時、ヨーロッパがとった対応策は、負債国に過酷な緊縮財政を課すというものだった。さらに、そうした政策が悲惨な経済的ダメージを与える一方で、約束された負債の軽減は達成できないだろうということを示す、簡単なロジックと歴史的証拠は拒否されたのだ。
欧州連合のトップたちが、政府の支出削減と増税は深刻な不景気をもたらすという警告をいかに無分別に一蹴したか、そして財政規律が自信を生むから(そうは、ならなかった)、すべてはうまくゆくといかに主張したかは、今でさえ思い返すと驚いてしまうほどだ。
❹ 真実は、緊縮財政のみの大きな負債への対応は、特に同時にハードマネー政策を推し進めた場合は、うまくいった例がない。第一次世界大戦後のイギリスでも、大きな犠牲を払ったにもかかわらず失敗に終わっている。
にもかかわらず、ギリシャではうまくいくと、どうして考えるのだろう?
では、今、ヨーロッパは何をすべきなのか――。それに対するいい答えはない。
しかし、その理由は、ユーロが「ゴキブリ・モーテル」のように、逃れるのが難しい罠になってしまったからだ。ギリシャが現在も自国通貨を持っていたとしても、その通貨の切り下げを行い、ギリシャの競争力を強化し、デフレを終わらせることは、あまりにも困難だ。
実際のところ、ギリシャには自国通貨がなく、作るとなればゼロから始めなければならず、それには大きな危険が伴う。私は、それでも
❺ ユーロからの離脱が必要になるだろうと考えているが、いずれにしても、負債の大幅な減額が不可欠だろう。
それにもかかわらず、これらのオプションに関する明確な議論は行われていない。なぜならヨーロッパの議論では、実際は間違っているのに欧州大陸のエリートたちが真実であって欲しいと願う考え方が、いまだに主流となっているからだ。
そしてヨーロッパは、今、その恐るべき独善性に対して多大なツケを払っているわけだ。
(翻訳/オフィス松村)
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● 図の金利のサイクルと景気のサイクルを合わせたものを見れば、2000年からユーロを
導入したのは大きな誤りと言うのが分かります。
● クルーグマン風にクルーグマンを非難すれば、経済や歴史のサイクルを見れない
クルーグマンは資本主義崩壊が見えないという事でしょう。
● 2046年の英米型資本主義の崩壊は、私の中では殆ど既定の未来と言う事になります。
少なくとも景気の30年サイクルが分かるなら、2000年にユーロを導入することは、
経済面からいえば、自殺行為と言う事です。
● 景気のピークで、株を買うのは素人ですが、ユーロ統合派も経済的には素人であった
という事です。それをクルーグマンさんは言いたいのでしょう。
● クルーグマンも、経済のサイクルを知っているのなら、いろいろ御託を並べなくても、
この図を見せれば済むことです。つまり、一言、何故景気の下降期にユーロを
導入するのだと言えば済むことですが・・・。
● いかんせんサイクルが読めない、現代の経済学者の大きな問題がここにあるのです。
● しかし、ユーロ圏は将来の勢力圏と見れば、納得も行きます。つまり武人時代に突入した
英米仏型資本主義の崩壊以後に出た武人国家が、ユーロ圏をわが勢力圏として、
政治的に再統合するという事です。
● 直近の例を挙げれば、中共が統一と征服の過程で、内戦を勝ち抜き、チベットやウイグル、内モンゴル
等を併合したように、再び強大化した仏を中心にした新しいナポレオンが、ユーロを
再統一するのです。それを戦国時代・武人の時代と言うのです。
● これは経済的統合ではなく、未来の独裁者が自分の縄張りを前もって線引きしていると
思えば、その政治的統合の意味も分かりやすいでしょう。
● そうであればユーロの意味もぐんと分かりやすいというものです。経済で読むから
分からないのです。資本主義は崩壊しないという思い込みが、ユーロの
意味を理解できないのです。全ての行動には意味があるのです。
● そして前にも書いたように、ベニスの商人を真似して屁理屈で借金を返さないギリシアは、
新しいナポレオンに借金のかたに、国土を占領されるのです。