エマニュエル・トッド/それでもトランプが歴史的大統領だった理由〈トランプ政権が行った“政策転換”が“今後30年の米国”を方向づけるだろう〉――文藝春秋特選記事【全文公開】<picture>
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エマニュエル・トッド氏(歴史人口学者)
「文藝春秋」1月号(2020年12月10日発売)の特選記事「それでもトランプは歴史的大統領だった」を公開します。 ◆ ◆ ◆ 本誌前々号で「それでも私はトランプ再選を望む」という見解を述べましたが、米国大統領選はバイデンの勝利に終わりました。この選挙結果は「米国の民主主義が復活したことの証しだ!」「自国ファーストから米国が世界に戻ってきた!」と、米国内だけでなく世界中で、概ね評価されています。
「過去4年間のトランプ政権への不満や批判」がそう言わせているわけですが、私はむしろ「トランプこそ米国大統領として“歴史に足跡を残す”ことになるだろう」と見ています。 トランプは下品で馬鹿げた人物であり、私自身も人として、とても許容できません。しかし、今回再選できなかったとはいえ、過去4年間にすでになされたトランプ政権による“政策転換”が、おそらく“今後30年の米国のあり方”を方向づけることになる。
「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「ヨーロッパからの離脱」というトランプが敷いた路線は、今後の米国にとって無視し得ないもの。その意味で“トランプは歴史的な大統領”である、と見ているわけです。 今回の大統領選挙を見ていて抱かざるを得なかった最大の疑問は、「勝利したとは言っても、結局のところ、バイデンとは何か? 民主党とは何か?」です。 バイデン陣営が最も前面に打ち出したのは“反(アンチ)トランプ”。しかし“反(アンチ)”のみで自らを定義するのは、あまりに“空虚”です。あるいはそもそも“空虚”だから“反(アンチ)”でしか自己を表現できないのです。