フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

9月4日(水) 晴れ

2024-09-05 14:15:01 | Weblog

8時15分、起床。

今日は王座戦の第一局がある。9時、対局開始。先月の28日、王位戦で渡辺九段を4勝1敗で破って防衛を果たしたとき、次の竜王戦まで一カ月以上あるとブログに書いたが、それは勘違いで、竜王戦の前に王座戦があった。藤井に長期の休みはない。ただ、王位戦がもつれてフルセットの闘いにならなかったことは、王座戦に集中できるという意味で大きかった。王座戦は五番勝負で、一日制の対局である。持ち時間は各5時間、途中、昼食休憩が1時間、夕食(軽食)休憩が30分入るので、両者がフルに持ち時間を使えば、終わるのは夜の8時を過ぎるだろう。

挑戦者の永瀬拓矢九段は前王座である。昨年の王座戦は、藤井は「八冠」、永瀬は「永世王座(五連覇)」をかけた戦いで、激闘と呼ぶにふさわしい内容の5番勝負だった。敗れた永瀬は不屈の精神で今回の挑戦者決定トーナメントを勝ち上がり、決勝で羽生九段を破ってのリターンマッチ登場である。

先手は永瀬。藤井は先手の角換わりの注文を、通常の3三銀の形ではなく、3三金で受けて立った。角換わり戦法はもっとも研究が進んでいる分野で、先手後手同型の進行は先攻できる分、先手が指しやすいと見られている。そこで後手は、千日手模様で待機したり、右玉に構えたり、(守備を簡易にして)先手の先を行って仕掛けたりと、いろいろと工夫をすることになる。3三金はその1つである。藤井は4月20日の叡王戦(挑戦者は伊藤匠七段)の第一局にこの形を用いて負けている。結果的に八冠の1つを失うことなった元の悪い戦法である。それをあえて王座戦の第一局にもってきたということは、十分な研究(修正)を積んでのことだろう。ただ、研究ということでは永瀬は決して藤井に引けをとらない。これは見ごたえのある戦いになるだろう。

チーズトースト、目玉焼き、ソーセージ、サラダ、牛乳、珈琲の朝食。

今朝の朝ドラ、仕事では原爆裁判、家庭では義母の認知症、公私に難題を抱える寅子の日々である。

奄美から特定外来生物のマングースがいなくなった(根絶された)という記事。「これだけ広い島で1万匹をゼロにすることは世界でも前例がない。ここにしかいない生き物を守れたことに意義がある」(石井信夫・東京女子大名誉教授)。

「元々は毒蛇(ハブ)対策のために持ち込まれたんですよね。決して彼らが海を泳いでやってきたわけじゃない。人間って勝手ですよね。」

対局を観戦しながら、今日のブログを書く。

二人の昼食は対局場である神奈川県秦野の旅館「陣屋」の名前を冠した「陣屋カレー」。ビーフカレー+海老カレーに伊勢海老のすり身のフライが付いている。

対局者の昼食休憩時間は12時から1時まで。しかし、私にはまだ早すぎる。原稿(論文)の仕事を続けて、1時半頃、昼食を食べに出る。

すぐ戻れるように近所の蕎麦屋「吉岡家」へ行く。向かいは交番。食事をしていて安心感のある蕎麦屋である(笑)。

この時間だとまだ店内に客は多い。「マーボ屋」のご主人が高齢のお母様と一緒にいらしていた。

注文を済ませて、さっそくキンドル・スクライブ取り出して、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読む。

胡麻だれ蕎麦。好きなメニューの一つである。軽めの食事にしたいときにいい。

蕎麦湯を胡麻ダレに注いで飲む。でも、全部は飲まない。蕎麦湯で薄めても全部を飲んでしまったら摂取する塩分の総量は同じである。

食後の珈琲を飲むように、蕎麦湯を飲みながら、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読む。

30分ほど滞在して店を出る。

局面は中盤。先手は馬を作って自陣に引きつけたが二歩損で駒台に歩はない。後手は二歩得だが、生角を自陣に打っている。先手は3五歩、同歩、同馬で歩を入したいが、後手からの7五銀が気になるところ。形勢は互角。

鳩サブレ―を食べながら、小説の続きを読む(蕎麦屋では切りのよいところまで読めなかった)。「ハードボイルド・ワンダーランド」の主人公は「計算士」で(会計士とは違う)、依頼されたシークレットな仕事を終えて、ヘトヘトに疲れて帰宅した、翌朝のシーンだ。時計は6時15分を示している。

 結局十時間ほど眠ったわけだった。体はまだ休息を求めていたし、どうせ今日一日することは何もなかったから、そのままもうひと眠りしてもよかったのだけれど、やはり思いなおして起きることにした。新しい手つかずの太陽とともに目覚めることの心地良さは何ものにもかえがたい。私はシャワーを浴びて丁寧に体を洗い髭を剃った。そして約ニ十分いつもどおりの体操をしてから、ありあわせの朝食をとった。冷蔵庫の中身はあらかた空っぽになっていたので、補充する必要があった。私は台所のテーブルに座って、オレンジ・ジュースを飲みながら、鉛筆でメモ用紙に買物のリストを書きあげた。リストは一枚では足りなくて、二枚になった。いずれにしてもまだスーパーマーケットは開いていないから、昼食をとりに外出するついでに買物をすることにした。(「ハードボイルド・ワンダーランド―頭骨、ローレン・バコール、図書館―」より)

 村上春樹の作品によく登場する単身の都市生活者の日常だ。買物リスト2枚というところが自分の日常生活にはないアイテムだ。スーパーに買物に行くことはめったになく、妻に頼まれて行くときも買うものは1つか2つなので(豆腐とか葱とか)、頭の中のメモで足りる。私の日常生活でリストといえば、就寝前に書く「翌日の活動リスト」だ。起床から就寝までの活動予定をタイムラインに沿って書いて、順次チェックしていく。シンプルなものだが、一種のナビゲーターの役割を果たしてくれる。

原稿を書きながら、ときどき対局中継に目をやる。まだ終盤(寄せ合い)ではないので、両者、考慮時間をそれなりに使って指している。

5時になって夕食(軽食)休憩30分。30分というのは私が蕎麦屋に滞在したときの時間くらいだ。

藤井は豚漬け丼。

永瀬が昼食と同じものを注文した(ただしハーフでとのこと)。たしか永瀬は昨年も「陣屋」でそういう注文の仕方をしていた。よほどカレーが好きなのだろう。

後手の藤井が7六歩と銀の頭に叩いたところ。藤井がやや優勢という局面である。

以下、同銀、7七歩、同金、7五歩、6五銀、5六銀打ちと藤井の攻めが続く。AIの形成判断の数値に変化はないが、なかなか永瀬に攻めの手番が回ってこない。

同金、7六桂(!)、9八玉、5六歩、8九銀打ち、5七歩成となった局面。

同馬は3七角成と桂を取られるから、6四銀、4七と、2五桂、2四金、1三桂成、6八角打ち、7八金、1三香(!)。最後の1三香と成桂を取った手には驚いた。私だけでなく、解説者たちも驚いていた。当然、先手は2四香と走って金を取る。それを同角成(!)。そういうことか、6八に銀でなく、角を打ったのは、このためだったのか。

夕食は鮭、もつ煮込み、豆ごはん、白菜の漬物、茄子の味噌汁。

先手の同飛と馬を取る手には2三香。これで先手の飛車は死んだ。飛車を取られ、それを打たれる前に、先手は後手の玉を詰まさねばならないが、攻めの拠点が取られそうな6四の銀だけでは、どうも無理のようである。

5三歩、2四香(!)、5二歩成、同飛、4二金打ち(!)となった局面。4二金は非常手段である。同飛とさせることで、飛車の自陣への潜入(二枚飛車での攻め)を防ぐ手である。

5一角は「最後のお願い」のような手。同玉なら9五角の王手金取りがある。

4一玉、4二歩、3二玉。この後、4一角打ちと王手をしても、3一玉で後が続かない。

永瀬はここで投了。5番勝負の第一局を先手番で落としたのは痛い。これで第二局は絶対に負けられない一番になった。一方、王位戦の第4局、第5局、そして本局と藤井は完璧に勝った。一時の不調から完全に復調したように見える。3連勝での防衛もあり得るように思う。そうすれば10月5日から始まる竜王戦(挑戦者は佐々木勇気八段)に集中して臨むことができる。現時点で佐々木勇気は最強の挑戦者であるが、藤井の一番の敵は過密スケジュールなのである。

感想戦を見守る立会人の青野照一九段は今年の6月に引退した現役最年長棋士だった。私より1つ年上の71歳。彼が編み出した対四間飛車戦法は「鷺宮流」と呼ばれ一世を風靡した。私も将棋道場でずいぶん使わせてもらった。お疲れ様でした。

手元に新旧紙幣がそろった。記念に写真を撮っておく。新紙幣が安っぽく見える一番の理由は、「10000」「5000」「1000」という大きな数字にあるだろう。漢数字と算用数字の位置関係を逆にしたからだが、でも、しかたないかな。そして「円安」が安っぽさ感に拍車をかけている。

対局を観戦しながらであったが原稿(論文)は一頁半も進んだ。参考文献から引用を予定している部分をキーボードで打ってたからなんですけどね。

風呂から出て、今日の日記を付ける。

1時半、就寝。