文化逍遥。

良質な文化の紹介。

『昭和の爆笑王 三遊亭歌笑』岡本 和明著 2010.新潮社

2015年04月08日 | 本と雑誌
 最近、図書館から借りて読んだ本の中から印象に残った本。



3代目の三遊亭金馬の弟子で、三遊亭歌笑。
1950年(昭和25年)5月30日、まだ進駐軍の占領下にあった時、米軍のジープにはねられて31歳でなくなった。稀代な芸人だったという。伝統的な落語の範疇にはとても入らない型破りな芸で一世を風靡、その人気はそうとうなものだったらしい。わたしも、録音で少し聞いたことがあるだけだが、伝統的な七五調のリズムの中に斬新なギャグを織り込んでゆく。その手法は柳亭痴楽(先代)、林家三平(先代)へと引き継がれ、いまでも林家木久翁がたまに高座に「純情詩集」などから代表作を掛けている。

 写真で見てのとおり特異な風貌で、右目の視力もほとんど無く、随分辛い目にあいながら独自の芸域を開拓していったらしい。
伝統を重んじる落語家や通の中には毛嫌いする人も多かったことは、容易に想像できる。が、笑いを届ける事が出来る芸は、それだけでも意義があるだろう。世の中「娯楽」ということで何でも一緒くたにするが、ギャンブルや酒で身を持ち崩す人は数限りないのに比べ、寄席に通いつめて身上つぶす人なんて聞いたことがない。たとえ、一時の笑いだとしても、それで救われえる人もいるかもしれない。それこそが仏教説話を基にする落語の役割の一端ともいえるのではないだろうか。また、入口はどこからでも良い、深い芸の世界に入るきっかけになれば、それはそれで意味がある。
 歌笑の真打昇進が協会内に出た時、強硬に反対する人もいたらしいが、先代の桂文楽の鶴の一声により昇進が決まったという興味深い逸話もこの本の中で語られている。さすがに文楽は寄席の本質をわかっていたのだな、と感じさせられた。

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