文化逍遥。

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『ジョー・ターナーが来て行ってしまった』オーガスト・ウィルソン著、桑原文子訳、2014而立書房

2015年05月15日 | 本と雑誌

これは、小説ではなく戯曲―すなわち演劇の為のシナリオ。
舞台は、1911年の夏、北部の都市ピッツバークのとある下宿屋に設定されてる。南部から仕事を求め、あるいは人を探して辿り着いた黒人たちの人間模様を通して、20世紀初頭のアメリカ社会の断面が描かれている。
 ブルースに興味のある方ならすぐに思い浮かべる事が出来ると思うが、「ジョー・ターナー(Joe Turner)」とは、W.C.ハンディ(W.C.Handy)の『ジョー・ターナー・ブルース』から来ている。19世紀末、山林の開拓などに必要な労働力を確保するために無理やり黒人男性を逮捕して無償で働かせた悪名高き人物だ。ただし、ハンディの曲の歌詞は男女のすれ違いがテーマになっていて、曲自体も転調のあるモダンな曲に作られている。作者は、おそらくハンディの楽譜集の解説の中に紹介されている南部に伝わる民間伝承された歌詞を参照したものと思われる。
 「ブルース」に関しては、様々な解説書が出ている。どれも間違っているとは思わないが、一面的な見方にとどまっている感が強い。このオーガスト・ウィルソンの『ジョー・ターナーが来て行ってしまった』はブルースの解説書ではないが、「ブルース」に興味があり参考文献を探している人にはこれをお薦めしたい。

 舞台朗読は1984年、初演は1986年というから、このシナリオが日本に紹介されるまで30年かかっているわけだ。翻訳の桑原文子氏に敬意をこめて、感謝したい。

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