文化逍遥。

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『オーガスト・ウィルソン』桑原文子著 2014、白水社

2015年04月18日 | 本と雑誌
 日本では無名に近いが、アメリカでは「黒人シェイクスピア」と称されるオーガスト・ウィルソンという劇作家がいた。わたしもこの本や他の戯曲を図書館で見つけるまで知らなかったが、1945年にピッツバーグで生まれ2005年にシアトルで亡くなっている。父はドイツ系の白人、母は黒人だったという。
 この本の中で、とても印象に残った言葉がある。ウィルソンの演劇活動の出発点となった作品として紹介されている『マ・レイニーのブラック・ボトム』の中のレイニ-の言葉より・・・

「白人はブルースなんてわかっちゃいないよ。ブルースが出てきたのを聞くだけで、どんなふうに入っていったのか知らないんだから。ブルースは人生を語る方法だってことが、わかってないんだ。いい気分になりたいから歌うんじゃない。人生をよくわかりたいから歌うんだよ」p93(『Ma Rainey's Black Bottom 』p82よりの引用)

 実際に、マ・レイニーがこんな事を言うかどうかは疑問だが、ブルースを愛する者にとってのブルースへの「思い」が、よく代弁されていると感じた。あるいは、ブルースに限らず、広く音楽を通じて「人生をよくわかりたい」と思う人達の気持ちを良く表している。プレーヤーの端くれとしても、忘れてはならない「心がけ」にしていたい。
 尚、誤解なきよう注釈を付しておく。マ・レイニー(Ma Rainey、本名Gertrude Pridgett)は1886年生まれの女性ブルースシンガーの草分け的な存在で、1939年に亡くなっている。すなわち、彼女が活躍したのは戦前の合衆国の都市部なわけで、「白人はブルースなんてわかっちゃいないよ・・・」のくだりは、あくまで人種差別が酷かった時代を背景にしたセリフだ。戦後は、白人のすぐれたブルース・プレーヤーが多く出ている。念のため。

 ウィルソンの優れた作品群の中から、特に『フェンス』は映画化の話も具体化されていたというが、作者の指名した監督が承認されず、結局実現しなかったという。アメリカまで演劇を観に行けないので、せめて映画化が実現されていれば、と思う。残念でならない。

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