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2017年ロシア映画『私のちいさなお葬式』

2019年12月20日 | 映画
 12/18(水)、千葉劇場にて。監督は、ウラジミール・コット。エレーナ役には、マリーナ・ネヨーロワ。





 ロシアという国は、どうもよく見えない。隣国なのにロシア製品というものは、ほとんど目にしない。身近にあるのは、鮭などの海産物くらいだ。資源が豊富なのだから、それを有効利用する技術を持てば自国内で製品を開発生産できると思うのだが、どうもそういう傾向にはないらしい。しかし、文学・音楽・絵画などの芸術分野では歴史的な人物が多く出ている。さらに今でも、軍事や宇宙開発の分野では抜きん出ている。資源国なので富裕層も多いらしいが、一方で、庶民生活はというと、貧しいのか豊かなのか・・・。
 そんなわけで、ロシアの庶民を描いた映画を観るのも悪くはないだろう。

 長年、片田舎の村でひとつしかない学校の教師をつとめ、今は年金で余生を送っている73歳のエレーナ。村の住人の中には、彼女の教え子も多い。そんなエレーナに「心臓が弱っている為いつ死んでもおかしくない」という余命宣告が医師から告げられる。大学卒業後、都会で暮らす一人息子のオレクに助けを求めることなく、彼女はひとりで自らの葬儀の準備をはじめるが・・・。

 この作品、原題は「Карп отмороженный」。ロシア語はわからないが、調べたところ「鯉の凍傷」になるらしい。
 映画の冒頭、病院でエレーナが余命宣告を受けた帰り道、かつての教え子が川で釣り上げた大きな鯉を貰う。もちろん食用で、すでに絞めてあるので彼女は家に帰り鯉を新聞紙でくるみ冷蔵室に入れ冷凍する。この鯉が、後に食べようと解凍したときに息を吹き返す。驚いた彼女は食べずに、しばらくバスタブの中で飼うことにする。全編に、鯉の影が投影され「生命力の象徴」として描かれてゆく。

 映画の題名が、これほど作品の印象に影響するとは思わなかった。仮にわたしがこの作品の監督で、邦題の意味を知ったら、放映の差し止めを求めるだろう。かつて、スタンリー・キューブリックが『フルメタルジャケット』という作品を日本で上映するにあたり、日本語の字幕を英訳させて確認し、全てをやり直させた事があった。翻訳とは、どうしても「思い入れ」が入るものなのだろう。ましてや映画の題名の場合では、必ずしも「翻訳」とはならず、集客を目的としたものになるのも多少は仕方ないかもしれない。この作品でも『鯉の凍傷』では、客も入らないだろうが、もう少し内容に寄り添った邦題にしてほしかった。

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