伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

64 上下

2016-04-10 18:57:38 | 小説
 平成14年(2002年)12月、刑事部出身の警視三上義信が広報官を務めるD県警を、昭和64年(1989年)1月に発生したまま未解決の少女誘拐殺人事件(翔子ちゃん誘拐殺人事件:通称64(ろくよん))を理由に警察庁長官が視察に訪れることになり、視察をつつがなく執り行うために実名発表問題でこじれている記者クラブとの関係を修復するよう厳命を受けた三上が警務部の上司の指示に反して刑事部から事件情報を入手しようと画策する中で、長官視察をめぐる本庁と本庁とつながるキャリア・警務部の思惑と刑事部の反発、64の遺族の不信感とD県警刑事部の秘密が錯綜し、刑事部出身で今は警務部・広報官という三上が身の処し方に窮していくという展開の警察小説。
 組織の論理が個人の信念や正義感を押しつぶし、その中で信念を貫きたい者、せめて面従腹背したい者がどういう道を選ぶか、といったあたりがテーマであり、読みどころとなります。主人公の三上を、刑事部出身で本庁・キャリア・警務部に魂を売りたくないという思いを持ちながら、しかし娘の高校生あゆみが家出をして音信不通になり全国捜索依頼中という弱みを握られて、キャリアの警務部長/警務課長に服従せざるを得ないという設定にして、度々煮え湯を飲まされるシーンを描いています。親にとって子どもはたいていは最大の弱点で(その点について、親の心子知らずであることも多いと思いますが)、それを人質に取られる苦悩を、誘拐事件の捜査/勃発と重ね合わせています。組織に押しつぶされる様の哀しさを三上だけでなく、信念を貫いて告発した者の行く末でも併せて描き(上巻304~305ページ:泣けてきます)、重みを増しています。
 様々な場面で様々な問題を二重三重に重ねて想起させながら展開し、いくつもの布石が生きてくる、ミステリーとしての読み応えのある作品です。三上の娘のあゆみの家出問題が、ちょっとその動機、その後の顛末とも今ひとつ感があるのが難点に思えますが。


横山秀夫 文春文庫 2015年2月10日発行(単行本は2010年10月)
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