元大劇団雪組の男役だったミュージカルスター香北つかさのファン組織「ファミリア」の幹部江崎美知代、いじめられっ子だった小学生時代と訣別しマンガイラストの才能を発揮して演劇部の美術班に入り香北つかさのファンになる秋元むつ美、舞踊学校時代からのライバルの行動に翻弄され舞台生活の黄昏を感じる香北つかさを描いた連作小説。
江崎美知代の第1話「スペードの3」と香北つかさの第3話「ダイヤのエース」は、一生懸命努力して地位を勝ち得た優等生が、身近に現れたライバルに生まれながらの能力や出自により軽々と乗り越えられ、しかもそのライバル側は悪意・敵意も見せず「天然」ぶりを発揮するという状況に、挫折感・焦燥感を持ち、ライバルに対する屈折した思いを持つ様子がテーマになっています。
特に第1話の江崎美知代は、小学生時代、まじめに勉強やピアノで努力し、学級委員になり、友だちを作れない同級生に配慮したり、精一杯努力してクラス内での地位を勝ち得たのに、ピアノが上手な美貌の転校生にあっという間に追い落とされ、しかも優等生としての努力自体まで批判され、否定的に描かれます。そして、小学校時代に頑張った優等生が、希望した化粧品会社に入社できず、配送業務をする関連会社で埋もれているというのも、現代の日本の若者/労働の実情を反映したものといえますが、哀しいところです。努力した者が報われず評価もされないという社会、努力すれば未来が切り拓かれると確信できない社会は、発展が望めず、人を幸せにはしないと思います。江崎美知代も香北つかさも、最後には、屈折した思いを持ちつつその中でなお頑張ろうと思うところが救いではありますが、そういったささやかな救い/望みしか生み出せない今の日本社会の制約/閉塞感を改めて感じてしまいました。
朝井リョウ 講談社 2014年3月13日発行
江崎美知代の第1話「スペードの3」と香北つかさの第3話「ダイヤのエース」は、一生懸命努力して地位を勝ち得た優等生が、身近に現れたライバルに生まれながらの能力や出自により軽々と乗り越えられ、しかもそのライバル側は悪意・敵意も見せず「天然」ぶりを発揮するという状況に、挫折感・焦燥感を持ち、ライバルに対する屈折した思いを持つ様子がテーマになっています。
特に第1話の江崎美知代は、小学生時代、まじめに勉強やピアノで努力し、学級委員になり、友だちを作れない同級生に配慮したり、精一杯努力してクラス内での地位を勝ち得たのに、ピアノが上手な美貌の転校生にあっという間に追い落とされ、しかも優等生としての努力自体まで批判され、否定的に描かれます。そして、小学校時代に頑張った優等生が、希望した化粧品会社に入社できず、配送業務をする関連会社で埋もれているというのも、現代の日本の若者/労働の実情を反映したものといえますが、哀しいところです。努力した者が報われず評価もされないという社会、努力すれば未来が切り拓かれると確信できない社会は、発展が望めず、人を幸せにはしないと思います。江崎美知代も香北つかさも、最後には、屈折した思いを持ちつつその中でなお頑張ろうと思うところが救いではありますが、そういったささやかな救い/望みしか生み出せない今の日本社会の制約/閉塞感を改めて感じてしまいました。
朝井リョウ 講談社 2014年3月13日発行