日本労働弁護団の中心メンバーによる労働法・労働事件の実務解説書シリーズの労働契約関係の部分。
2008年に刊行された「問題解決労働法」シリーズの改訂版です。
労働者性、使用者性、労働契約の成立と変更、有期労働契約など、幅広い領域を扱っていますが、通し読みにはつぎはぎ感があります。
退職金支給基準変更についての個別労働者の同意の有無(有効性)の判断に当たっては、それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきとする山梨県民信用組合事件最高裁判決(2016年2月19日第二小法廷判決)などという判例集にもまだ掲載されていない裁判所Webの判例が紹介されていたり(110~111ページ。ただし110ページ下から5行目の引用文の「老害変更」は「当該変更」の誤り)、成果賃金制度の導入にあたり年俸を能力と成果に基づいて決定するというレベルのあいまいな基準で使用者に白紙委任することは労働契約法第3条第1項の労使対等合意原則の趣旨に反し合理的とはいえないから有効とはいえない(101~102ページ)などの私にはお題目に思えてしまう労働契約法の総論的規定を駆使した立論に著者の思考のキレが感じられ、参考になります。
他方、2008年の旧版の記述を見直さないままに放置されていると思われる記述が散見されます。労働契約法が19条までしかない(3ページ、14ページ。2012年改正で22条までになっています)とか、偽装請負の偽装請負業者の労働者と偽装注文主(実質派遣労働者と派遣先)の間に黙示の労働契約の成立(直接雇用)を認めた松下PDP事件大阪高裁判決(2008年4月25日)を紹介しつつ「最高裁判所の判断が注目される」(40ページ)(最高裁は2009年12月18日に大阪高裁判決を破棄し労働者側の逆転敗訴の判決を出し、その後この問題については、例外的な1例を除き、労働者側の敗訴が続いています)とかは、労働事件についてそこそこ知識がある読者にはビックリものです。忙しくて、書き直すと決めた部分以外の元原稿をちゃんと読まなかったんでしょうね…(T_T)
23ページ最終行から24ページ1行目と144ページ7行目の「期間の定めのある」はどちらも「期間の定めのない」の間違い、152ページの図6-3はたぶん作図がずれたり画像が潰れたりしたのだと思いますが何のことかよくわからず少なくとも矢印の位置は間違い、「(傍点筆者)」と書かれている2か所(18ページ、34~35ページ)が2か所とも傍点がない、などが目につきますし、他にも誤植・変換ミス等はかなりあります。このシリーズは全体的に、誤植・変換ミスが多いと思います。編集者が全然校正やっていないということなんでしょうか。
水口洋介 旬報社 2016年4月11日発行
2008年に刊行された「問題解決労働法」シリーズの改訂版です。
労働者性、使用者性、労働契約の成立と変更、有期労働契約など、幅広い領域を扱っていますが、通し読みにはつぎはぎ感があります。
退職金支給基準変更についての個別労働者の同意の有無(有効性)の判断に当たっては、それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきとする山梨県民信用組合事件最高裁判決(2016年2月19日第二小法廷判決)などという判例集にもまだ掲載されていない裁判所Webの判例が紹介されていたり(110~111ページ。ただし110ページ下から5行目の引用文の「老害変更」は「当該変更」の誤り)、成果賃金制度の導入にあたり年俸を能力と成果に基づいて決定するというレベルのあいまいな基準で使用者に白紙委任することは労働契約法第3条第1項の労使対等合意原則の趣旨に反し合理的とはいえないから有効とはいえない(101~102ページ)などの私にはお題目に思えてしまう労働契約法の総論的規定を駆使した立論に著者の思考のキレが感じられ、参考になります。
他方、2008年の旧版の記述を見直さないままに放置されていると思われる記述が散見されます。労働契約法が19条までしかない(3ページ、14ページ。2012年改正で22条までになっています)とか、偽装請負の偽装請負業者の労働者と偽装注文主(実質派遣労働者と派遣先)の間に黙示の労働契約の成立(直接雇用)を認めた松下PDP事件大阪高裁判決(2008年4月25日)を紹介しつつ「最高裁判所の判断が注目される」(40ページ)(最高裁は2009年12月18日に大阪高裁判決を破棄し労働者側の逆転敗訴の判決を出し、その後この問題については、例外的な1例を除き、労働者側の敗訴が続いています)とかは、労働事件についてそこそこ知識がある読者にはビックリものです。忙しくて、書き直すと決めた部分以外の元原稿をちゃんと読まなかったんでしょうね…(T_T)
23ページ最終行から24ページ1行目と144ページ7行目の「期間の定めのある」はどちらも「期間の定めのない」の間違い、152ページの図6-3はたぶん作図がずれたり画像が潰れたりしたのだと思いますが何のことかよくわからず少なくとも矢印の位置は間違い、「(傍点筆者)」と書かれている2か所(18ページ、34~35ページ)が2か所とも傍点がない、などが目につきますし、他にも誤植・変換ミス等はかなりあります。このシリーズは全体的に、誤植・変換ミスが多いと思います。編集者が全然校正やっていないということなんでしょうか。
水口洋介 旬報社 2016年4月11日発行