伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

透き通った風が吹いて

2016-04-02 22:05:54 | 小説
 岡山県美作市の県立林野高校(実在、作者の母校)3年生の3人、野球部ピッチャー老舗の茶屋「まなか屋」の次男坊の真中渓哉、キャッチャーの幼なじみ津中実紀、湯郷温泉の老舗旅館「みその苑」の長女深野栄美らの友情、進路についての迷いなどを描く青春小説。
 作者お得意の、野球そのものではなく野球をする青年を素材にした青春小説で、舞台も作者の出身地というある意味十八番とも、ある意味お手軽とも言える作品です。
 主人公の渓哉の、父の死で会社員を辞めて故郷に戻り「まなか屋」を継いで盛り立てる12歳年上の兄淳哉への敬意と本人の主観では「僅かに」しかし現実には強い嫉妬心、母からは家業を継いで兄を支えることを望まれ、客観的には将来が安定した恵まれた環境にありながら、本人はその将来に反発しつつも、といって何かやりたいことがあるわけでもなく将来へのビジョンをまったく持っていないという、未熟な戸惑いと苛立ちがテーマです。路上で出会い憧れを感じた年上の女性が実は兄の恋人と知ってそこでも兄への敗北感・嫉妬心にまみれつつ、自分の物言いが子どもっぽ過ぎるとわかりながらもずけずけと踏み込み突っかかっていく様子は、わかってるんならやめときゃいいのにと思いますし、自分を客観視できるようで、栄美との関係でもまるっきり鈍感だしというところが、まぁ未熟な青年の揺れ・うつろいを示していると言えるわけですが。


あさのあつこ 文藝春秋 2015年11月30日発行
コメント
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