宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙開発事業団(NASDA)時代は宇宙飛行士室長、JAXA有人宇宙環境利用ミッション推進本部有人宇宙技術部部長等を務め、宇宙飛行士の選抜・管理にあたっていた著者が、国際宇宙開発での日本の宇宙技術・日本人宇宙飛行士の役割・位置取り、宇宙飛行士の選抜と訓練等について解説した本。
ソ連、アメリカがパイオニアとして進め、遥かに遅れて日本が参入した有人宇宙飛行の領域で、これまでにすでに多数の日本人宇宙飛行士が誕生して国際宇宙ステーション(ISS)の建設やそこでの滞在・実験研究ミッションに携わり、2013年11月から6か月のフライトでは若田光一がISS船長職を務めたなどと聞くと、私のような、ナショナリズムを嫌う者でも、どこか誇らしげな気持ちをかきたてられてしまいます。この本が扱う宇宙開発・宇宙飛行は、ナショナリズムの高揚という点からは、オリンピックなどのスポーツ系の祭典をも超えるテーマだと思います。しかし、国際協力の下で進められる宇宙開発を語るときに、日本は、日本人はと言い立て続けているうちは、まだ本当のパートナーたり得ていないのではないかという気がします。
日本人宇宙飛行士に関しても、JAXAが選抜していない秋山豊寛については素っ気ない記述で、「なぜ初飛行はテレビ局社員だったか」という項目を立てながら、宇宙開発事業団も日本人宇宙飛行士の実現のため準備を進めていたが1986年のチャレンジャーの事故で実施が大幅に遅れ、結果的にTBSの後塵を拝してしまった(28~29ページ)と、NASDAが最初の日本人宇宙飛行士を出せなかった言い訳をするだけで、秋山豊寛の宇宙飛行に至る経緯は何一つ触れずにいます(212ページには、民間の「宇宙旅行者」同様に金で買ったというニュアンスの記述があります)。毛利衛以降のJAXA選抜の日本人宇宙飛行士たちだけが優れた人物で優れた仕事をしたようなその後の書きぶりを見ると、JAXA官僚の手になるものとはいえ、あまりに大人げないと思いました。
宇宙飛行士の選抜や訓練の大変さとか、スペースシャトルが退役してISSに宇宙飛行士を送り出すのはソユーズ宇宙船だけとなっているため宇宙飛行士にはロシア語の会話力が必須となっているとか、6人が常駐する国際宇宙ステーションでは年間7.5トンの水が必要となり尿も含めて全ての水分・蒸気を再利用しているがそれでも年間3トン程度の水を補給する必要がありその運搬経費が60億円(95~96ページ:といっても水だけ運ぶわけじゃないから正しいコストかどうかわかりませんが)とか、そういう情報は好奇心をそそられます。宇宙ステーション滞在の生活の大変さについて、公式の抽象的なものだけでなく、もっと具体的な話があるとよかったと思うのですが。
柳川孝二 中公新書 2015年12月20日発行
ソ連、アメリカがパイオニアとして進め、遥かに遅れて日本が参入した有人宇宙飛行の領域で、これまでにすでに多数の日本人宇宙飛行士が誕生して国際宇宙ステーション(ISS)の建設やそこでの滞在・実験研究ミッションに携わり、2013年11月から6か月のフライトでは若田光一がISS船長職を務めたなどと聞くと、私のような、ナショナリズムを嫌う者でも、どこか誇らしげな気持ちをかきたてられてしまいます。この本が扱う宇宙開発・宇宙飛行は、ナショナリズムの高揚という点からは、オリンピックなどのスポーツ系の祭典をも超えるテーマだと思います。しかし、国際協力の下で進められる宇宙開発を語るときに、日本は、日本人はと言い立て続けているうちは、まだ本当のパートナーたり得ていないのではないかという気がします。
日本人宇宙飛行士に関しても、JAXAが選抜していない秋山豊寛については素っ気ない記述で、「なぜ初飛行はテレビ局社員だったか」という項目を立てながら、宇宙開発事業団も日本人宇宙飛行士の実現のため準備を進めていたが1986年のチャレンジャーの事故で実施が大幅に遅れ、結果的にTBSの後塵を拝してしまった(28~29ページ)と、NASDAが最初の日本人宇宙飛行士を出せなかった言い訳をするだけで、秋山豊寛の宇宙飛行に至る経緯は何一つ触れずにいます(212ページには、民間の「宇宙旅行者」同様に金で買ったというニュアンスの記述があります)。毛利衛以降のJAXA選抜の日本人宇宙飛行士たちだけが優れた人物で優れた仕事をしたようなその後の書きぶりを見ると、JAXA官僚の手になるものとはいえ、あまりに大人げないと思いました。
宇宙飛行士の選抜や訓練の大変さとか、スペースシャトルが退役してISSに宇宙飛行士を送り出すのはソユーズ宇宙船だけとなっているため宇宙飛行士にはロシア語の会話力が必須となっているとか、6人が常駐する国際宇宙ステーションでは年間7.5トンの水が必要となり尿も含めて全ての水分・蒸気を再利用しているがそれでも年間3トン程度の水を補給する必要がありその運搬経費が60億円(95~96ページ:といっても水だけ運ぶわけじゃないから正しいコストかどうかわかりませんが)とか、そういう情報は好奇心をそそられます。宇宙ステーション滞在の生活の大変さについて、公式の抽象的なものだけでなく、もっと具体的な話があるとよかったと思うのですが。
柳川孝二 中公新書 2015年12月20日発行