伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

判決破棄 リンカーン弁護士 上下

2016-04-27 00:04:25 | 小説
 リンカーン弁護士シリーズの第3作。
 敏腕刑事弁護士マイクル・ハラーが、この作品では、地区検事長から依頼されて、州最高裁判所が有罪判決を破棄した事件で特別検察官を務めるという設定で、元妻の検察官とともに臨時に借りた事務所で執務します。リンカーンの後部座席を事務所代わりに違法すれすれで事件に勝つちょいワル弁護士という第1作の設定からは、事務所スタイルの独自性も消え、検察の正義に邁進するという、ずいぶんとかけ離れたものになっています。第1作から一貫しているのは、マイクル・ハラーの敏腕さで、ハラーが敏腕すぎるために、勝つか負けるかのハラハラさはなくて、読者の興味はハラーがどうやって勝つかにほぼ尽きてしまいます。
 業界人としては、裁判官とのやりとり、法廷での尋問場面でのどこまで尋問するかをめぐる判断と駆け引きが興味深く読めますが…
 ところで、この作品のテーマは、有罪判決を受けて服役していた元被告人が、ボランティアで無罪主張している事件のDNA鑑定をして冤罪を晴らす弁護士たちの活動の結果、被害者の衣服に付着していた精液が別人のものと判明して有罪判決が破棄されたという事案で、DNA鑑定で冤罪と裁判所(州最高裁)が判断しても、無実とは限らない、実は犯罪者だったという主張です。アメリカで精力的に活動する「イノセンス・プロジェクト」に対する挑戦というべきもので、このような検察官寄り・国家権力寄り・人権派弁護士嫌いの人権活動家の足を引っ張る言説を、ジャーナリスト(元ロサンジェルス・タイムズ記者)出身の作者が好んで採りあげるというところに、暗く哀しいものを感じました。


原題:THE REVERSAL
マイクル・コナリー 訳:古沢嘉通
講談社文庫 2014年11月14日発行 (原書は2010年) 
コメント
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