企業側の弁護士の立場から、不祥事が発覚した際の当該企業自身が行う社内調査について解説した本。
第10章の「不正行為の類型別の留意点」での架空取引、キックバック、各種ハラスメント、データ漏えい、情報セキュリティ事故、会計不正、有価証券報告書虚偽記載、品質不正、検査データ偽装、外国公務員贈賄に関する解説は少し具体的にイメージでき、参考になりした。
他の部分は、書かれていること自体はそうだろうなと思いますが、どうしても抽象的な説明のため、現実の調査でどこまで指針になり、また実施されているのかは不明です。
「本当の絶対的真実は誰にもわかりません」(118ページ)、「不正発覚後の初動調査では数日から1週間程度、その後に行われる本格調査でも数週間から1ヶ月程度というような調査期限が設定される場合が多いのではないでしょうか」(46ページ)、「調査期限は通常動かしがたく、会社のリソースには限界もあります」(48ページ)など、事実そのとおりだと思います。しかし、そのような制約を前提として「経営判断の前提となった事実認識に不注意な誤りがなく、判断の内容が著しく不合理なものでなければ、経営陣は、その判断が結果的に誤りであったとしても、善管注意義務違反を問われない(免責される)という判例法理」(経営判断原則)があり、社内調査による正確な事実関係の把握は事実関係に不注意な誤りが生じないようにすることで会社と経営陣を守るという意味がある(10ページ)、他に同種の不正がないかについては存在しないことの証明は悪魔の証明で困難、「ここまで調査を尽くしましたが、見つかったのはここまでです。したがって、他に不正がないことが合理的に推認されます」と説明する(26~27ページ)などの説明がなされると、真実の解明と問題の根本的解決を言いながらも、実際には会社と経営陣の責任回避のための調査にとどめる(調査の目的はそこ)というところに流れていくのではないかと思えます。
この本では、社内調査でも適正な手順により相当な努力をして調査すべきことを求めていますが、そのとおりに実行するためには調査担当者の高い志と能力が不可欠だと思います。多くの企業でコンプライアンス部門にそういった人物が配置されているかは、かなり疑問に思え、現実にはあるべき社内調査が実施されているとは言いにくいのではないでしょうか。
といって、社外の専門家に委託して「第三者委員会」を作るなどしても、そこで多用される弁護士も所詮は経営陣から依頼された立場にあり、この本で紹介されている日本取引所自主規制法人のプリンシプルでも「第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないよう留意する」と書かれてしまう(184ページ)ような問題をはらんでいるわけですが。
調査チームはあくまでも会社のために調査を行うものであり、通報者や被害者の味方ではなくそのことを誤解させないようにという注意(90ページ)は、社内調査の現実はそのとおりで会社や担当者の目的は被害救済ではないことをよく示しています。社内調査で「中立的な立場でヒアリングする」と説明した弁護士が後日その不正に関する法的手続で会社の代理人となって懲戒請求された例を挙げて説明で誤解させないよう注意し、アメリカでは弁護士が会社の代理人であってヒアリング対象者の代理人でないこと、ヒアリングの内容について会社は秘密保護を受けるがヒアリング対象者は保護を受けないことの警告をなすべきとされていることが紹介されています(90ページ)。その点は、会社の代理人であることを説明すればそれでいいのか、調査に関与した弁護士はその事件で会社を代理すべきではないのではないかという疑問を残します。私の感覚では、顧問弁護士が調査に関与し、その後法的手続で会社を代理するというのは、企業側弁護士が脇が甘くルーズだという印象を持ちますが。
社内調査での証拠検討や関係者のヒアリングで、オンライン調査のやりにくさ、不十分さにも触れられており、特にヒアリングでテレビ会議でも表情は見えても挙動が読み取れない、画面外に助言者がいてもわからないなどが指摘されている(18ページ)のは、なるほどと思いました。
デジタルフォレンジック(パソコンやサーバーのデータを保全・解析して整理すること)を業者に依頼すると数百万円からときには数千万円になる(65ページ)って…業者ボリ過ぎと私には思えるのですが…解雇事件で、労働者が使用していたパソコンのネットの閲覧履歴とかメールの送受信一覧表とか作成ファイルの一覧表が提出されて、業務時間中に業務外のことをしていたとか、残業時間中に仕事をしていなかったとか主張されることを時々経験しますが、そういうのもこんなにお金をかけているんでしょうか。それならその費用を解決金に充てて和解した方が会社にとってもいいと思うのですが。

プロアクト法律事務所 中央経済社 2020年12月10日発行
第10章の「不正行為の類型別の留意点」での架空取引、キックバック、各種ハラスメント、データ漏えい、情報セキュリティ事故、会計不正、有価証券報告書虚偽記載、品質不正、検査データ偽装、外国公務員贈賄に関する解説は少し具体的にイメージでき、参考になりした。
他の部分は、書かれていること自体はそうだろうなと思いますが、どうしても抽象的な説明のため、現実の調査でどこまで指針になり、また実施されているのかは不明です。
「本当の絶対的真実は誰にもわかりません」(118ページ)、「不正発覚後の初動調査では数日から1週間程度、その後に行われる本格調査でも数週間から1ヶ月程度というような調査期限が設定される場合が多いのではないでしょうか」(46ページ)、「調査期限は通常動かしがたく、会社のリソースには限界もあります」(48ページ)など、事実そのとおりだと思います。しかし、そのような制約を前提として「経営判断の前提となった事実認識に不注意な誤りがなく、判断の内容が著しく不合理なものでなければ、経営陣は、その判断が結果的に誤りであったとしても、善管注意義務違反を問われない(免責される)という判例法理」(経営判断原則)があり、社内調査による正確な事実関係の把握は事実関係に不注意な誤りが生じないようにすることで会社と経営陣を守るという意味がある(10ページ)、他に同種の不正がないかについては存在しないことの証明は悪魔の証明で困難、「ここまで調査を尽くしましたが、見つかったのはここまでです。したがって、他に不正がないことが合理的に推認されます」と説明する(26~27ページ)などの説明がなされると、真実の解明と問題の根本的解決を言いながらも、実際には会社と経営陣の責任回避のための調査にとどめる(調査の目的はそこ)というところに流れていくのではないかと思えます。
この本では、社内調査でも適正な手順により相当な努力をして調査すべきことを求めていますが、そのとおりに実行するためには調査担当者の高い志と能力が不可欠だと思います。多くの企業でコンプライアンス部門にそういった人物が配置されているかは、かなり疑問に思え、現実にはあるべき社内調査が実施されているとは言いにくいのではないでしょうか。
といって、社外の専門家に委託して「第三者委員会」を作るなどしても、そこで多用される弁護士も所詮は経営陣から依頼された立場にあり、この本で紹介されている日本取引所自主規制法人のプリンシプルでも「第三者委員会という形式をもって、安易で不十分な調査に、客観性・中立性の装いを持たせるような事態を招かないよう留意する」と書かれてしまう(184ページ)ような問題をはらんでいるわけですが。
調査チームはあくまでも会社のために調査を行うものであり、通報者や被害者の味方ではなくそのことを誤解させないようにという注意(90ページ)は、社内調査の現実はそのとおりで会社や担当者の目的は被害救済ではないことをよく示しています。社内調査で「中立的な立場でヒアリングする」と説明した弁護士が後日その不正に関する法的手続で会社の代理人となって懲戒請求された例を挙げて説明で誤解させないよう注意し、アメリカでは弁護士が会社の代理人であってヒアリング対象者の代理人でないこと、ヒアリングの内容について会社は秘密保護を受けるがヒアリング対象者は保護を受けないことの警告をなすべきとされていることが紹介されています(90ページ)。その点は、会社の代理人であることを説明すればそれでいいのか、調査に関与した弁護士はその事件で会社を代理すべきではないのではないかという疑問を残します。私の感覚では、顧問弁護士が調査に関与し、その後法的手続で会社を代理するというのは、企業側弁護士が脇が甘くルーズだという印象を持ちますが。
社内調査での証拠検討や関係者のヒアリングで、オンライン調査のやりにくさ、不十分さにも触れられており、特にヒアリングでテレビ会議でも表情は見えても挙動が読み取れない、画面外に助言者がいてもわからないなどが指摘されている(18ページ)のは、なるほどと思いました。
デジタルフォレンジック(パソコンやサーバーのデータを保全・解析して整理すること)を業者に依頼すると数百万円からときには数千万円になる(65ページ)って…業者ボリ過ぎと私には思えるのですが…解雇事件で、労働者が使用していたパソコンのネットの閲覧履歴とかメールの送受信一覧表とか作成ファイルの一覧表が提出されて、業務時間中に業務外のことをしていたとか、残業時間中に仕事をしていなかったとか主張されることを時々経験しますが、そういうのもこんなにお金をかけているんでしょうか。それならその費用を解決金に充てて和解した方が会社にとってもいいと思うのですが。

プロアクト法律事務所 中央経済社 2020年12月10日発行