町の書店の店員として働いている長時間労働低収入の夫と暮らす日々などについて触れたエッセイ集。
夫ネタの他にも、前半では、病に倒れた父親のことや流産のことが何度か話題になり、後半では父親の死亡やデビュー直後に「ブス」と攻撃されたことが何度か話題になっています。
夫が低収入ではあるけれど、専業主夫というわけでもなく、家事や経済面、あるいはその他の面で著者の仕事を支えてくれるわけでもない夫婦のありようについて、それでいいじゃないか、自分はそうしたいからそうしている、最高の人ではなくてたまたま側にいる人を愛し抜きたいというようなところが基本線になっています。
社会の主流、ふつうと違う自分たちないし自分を肯定し、それでいいじゃないかというために、しかしそうでない考えの人に自分の考えを押しつけるつもりはないということを、著者は繰り返し言っています。新聞連載という性質上、なのか、ずいぶん気を遣うものだなぁと感じました。
自分の父親が老いて家に手すりを付けようということになって、街を歩くとこれまでとは違う景色が見えるようになった、重い荷物を持つ高齢の人や老齢でナビが使えないタクシー運転手などに違った感じ方を持つようになったという話(34~36ページ)。私などは、自分自身が慢性の腰痛とか動きが鈍くなって、それで他人の動きにそういうことを感じる始末ですが、それは実感するところです。
社会的ステータスが低そうな夫とふつうの主婦っぽく気弱な自分の夫婦が高級な店で軽く扱われ、仕事で接待されるときとは店員の接し方がずいぶんと違うと感じ、結婚当初は夫にマナーやおしゃれの勉強をして欲しい、一緒に出かけるのが恥ずかしいと思ったが、自分はエスコートしてくれる人が欲しくて結婚したのではない、自分たちが卑下する必要はない、そういうお店には行かないで自分たちに優しく接してくれるお店だったたくさんあると思い直す話(186~188ページ)。いかにも、なるほどと思います。そういうことを書くときにも、「社会的ステータスの高い客を接客業の方が大切にするのは当たり前だ」というひと言を入れるのには、先に述べたように、気をつかってたいへんだなと思いますが。
「私は、夫や自分のような、『戦時下においては無能』とされるような人間の価値を守っていきたい、と思う。兵隊向きの性格でないことは、決して、恥ずかしくない」(101~102ページ)、「弱く優しい男を肯定することが反戦に繋がるような気がするから、私は夫をこの先も大事にしていこうと思う」(183ページ)など、「かわいい夫」ネタでエッセイを書くという方向性が、反戦のメッセージにも繋がっているところも見えます。ここでもまた、「戦争が起こる理由はいつも複雑で、誰が悪いというわけでもないから、責任云々を言っても仕方がないだろう。それに、生まれたときから平和な時代でぬくぬく過ごさせてもらった私が、戦争時代を生き抜いた人に何かを言うということは難しい」(102ページ)とまで言及する著者の気遣いと遠慮には、やはり、たいへんなんだなぁと感じてしまうのですが。

山崎ナオコーラ 河出文庫 2020年2月20日発行(単行本は2015年12月、夏葉社)
前半は西日本新聞連載
夫ネタの他にも、前半では、病に倒れた父親のことや流産のことが何度か話題になり、後半では父親の死亡やデビュー直後に「ブス」と攻撃されたことが何度か話題になっています。
夫が低収入ではあるけれど、専業主夫というわけでもなく、家事や経済面、あるいはその他の面で著者の仕事を支えてくれるわけでもない夫婦のありようについて、それでいいじゃないか、自分はそうしたいからそうしている、最高の人ではなくてたまたま側にいる人を愛し抜きたいというようなところが基本線になっています。
社会の主流、ふつうと違う自分たちないし自分を肯定し、それでいいじゃないかというために、しかしそうでない考えの人に自分の考えを押しつけるつもりはないということを、著者は繰り返し言っています。新聞連載という性質上、なのか、ずいぶん気を遣うものだなぁと感じました。
自分の父親が老いて家に手すりを付けようということになって、街を歩くとこれまでとは違う景色が見えるようになった、重い荷物を持つ高齢の人や老齢でナビが使えないタクシー運転手などに違った感じ方を持つようになったという話(34~36ページ)。私などは、自分自身が慢性の腰痛とか動きが鈍くなって、それで他人の動きにそういうことを感じる始末ですが、それは実感するところです。
社会的ステータスが低そうな夫とふつうの主婦っぽく気弱な自分の夫婦が高級な店で軽く扱われ、仕事で接待されるときとは店員の接し方がずいぶんと違うと感じ、結婚当初は夫にマナーやおしゃれの勉強をして欲しい、一緒に出かけるのが恥ずかしいと思ったが、自分はエスコートしてくれる人が欲しくて結婚したのではない、自分たちが卑下する必要はない、そういうお店には行かないで自分たちに優しく接してくれるお店だったたくさんあると思い直す話(186~188ページ)。いかにも、なるほどと思います。そういうことを書くときにも、「社会的ステータスの高い客を接客業の方が大切にするのは当たり前だ」というひと言を入れるのには、先に述べたように、気をつかってたいへんだなと思いますが。
「私は、夫や自分のような、『戦時下においては無能』とされるような人間の価値を守っていきたい、と思う。兵隊向きの性格でないことは、決して、恥ずかしくない」(101~102ページ)、「弱く優しい男を肯定することが反戦に繋がるような気がするから、私は夫をこの先も大事にしていこうと思う」(183ページ)など、「かわいい夫」ネタでエッセイを書くという方向性が、反戦のメッセージにも繋がっているところも見えます。ここでもまた、「戦争が起こる理由はいつも複雑で、誰が悪いというわけでもないから、責任云々を言っても仕方がないだろう。それに、生まれたときから平和な時代でぬくぬく過ごさせてもらった私が、戦争時代を生き抜いた人に何かを言うということは難しい」(102ページ)とまで言及する著者の気遣いと遠慮には、やはり、たいへんなんだなぁと感じてしまうのですが。

山崎ナオコーラ 河出文庫 2020年2月20日発行(単行本は2015年12月、夏葉社)
前半は西日本新聞連載