伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

問題発見力を鍛える

2021-02-14 22:10:34 | 実用書・ビジネス書
 従来の教育や価値観ではすでにある「問題」を効率よくうまく解決することが重視され尊ばれてきたが、そのような問題はAIの方が得意であり向いているから今後は問題解決は大部分がAIに取って代わられ、人間に必要な能力は何が問題なのかを発見する問題発見力にシフトし、それに適した人物はこれまでの教育や常識に囚われない非常識な少数派の問題児だというようなことを論じた本。
 問題提起としては面白く、またものの見方、評価についてオルタナティブ(他の選択肢)を意識させることは有意義だと思いますが、その問題提起の先のどうやって「問題発見力を鍛える」かは今ひとつ深められていないように思えます。著者の指摘は、従来の教育では問題発見力がある人物は育たないというところまでで、積極的にどうすれば問題発見力のある人物を育てられるかに関しては、「実は問題発見力は鍛えるのではなく『必要以上に抑圧しない』ことの方が重要なのかも知れません」(189ページ)としています。
 著者は、「問題発見」の意義の説明を「自動車運転の最新情報について調べてくれないかなあ」と言われたという例を挙げて、本当に解くべき問題は何かを問題を疑ってかかり「Why」を問い続けることで真の問題を発見すべきだとしています(40~46ページ)。弁護士が相談者・依頼者から何かを問われたとき、その最初の質問・問いかけをもってそれにだけ答えようとすることは(新聞・雑誌などの「紙上法律相談」やQ&A形式の解説書のような、現実の法律相談とはかけ離れた「読み物」の世界以外では)およそありえません。素人がいきなり本質を突いた核心的な質問をすること自体あり得ませんし、法律相談は、相談者・依頼者が何か解決したいことがあってなされるものですから、最終的にはその解決したい問題をどう解決するかがポイントで、そこに向けて考えを進めていかなければ相談者・依頼者の真のニーズに応えることはできません。ですから、通常、法律相談は、相談者・依頼者の簡単な説明の後は、弁護士側からの質問が続きます。その中で弁護士が相談者・依頼者が置かれている状況と問題点を把握し、相談者・依頼者が何を求めているかを聞き取って、それから答を考え始めるのです。著者が言うような「問題発見」は、弁護士の仕事の中で言うと、弁護士が日常的に行っていることであり、また原因を求める「Why」よりも、相談者・依頼者が「本当は何を求めているのか」「最終的にどういう形で解決するのが望ましいのか」というクエスチョンを発して行っているものです。それは、著者の言う常識に囚われない(非常識な)少数者の問題児が得意なということがらではなく、(著者の評価でもおそらく従来の教育上のエリートであり常識的な人物が多いであろう弁護士の)業務上の経験に基づく専門知・経験知に属しています。
 そういう意味で、どこまでの領域で著者の指摘が当てはまるのかは、具体的に検討するとよくわからないようにも思えますが、通常パターンの思考の見直しを促す点で刺激のある読み物かなと思います。


細谷功 講談社現代新書 2020年8月20日発行
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