伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

涼宮ハルヒの憂鬱

2007-03-05 08:42:37 | 物語・ファンタジー・SF
 他人の迷惑を顧みないジコチュウ美少女高校生涼宮ハルヒが、不思議現象を求めてSOS団(世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団)を結成し、ハルヒ自身は無自覚に不思議な現象を引き起こしているのにハルヒの前では不思議な現象は現れず退屈だと不満を述べ続けまわりのメンバーが振り回されるづけるというSF小説。
 ハルヒの気まぐれで、ハルヒが知らないうちに世界が創造・破壊されたり閉鎖空間が現れたりするという設定で、ハルヒは一種の怒れる神。ハルヒの前の席だったためにハルヒに気に入られて引き込まれたキョン(この人だけが普通の高校生)、何があっても動じないで本を読み続ける文学少女長門有希(実は宇宙人に作られた人造人間)、ロリータ系美少女でハルヒにコスプレを強要され続ける朝比奈みくる(実は未来人。「みくる」ってやっぱり「未来」なんでしょうね)、謎の転校生古泉一樹(実は超常的に現れる閉鎖空間で巨人と闘う超能力者)が、ハルヒの引き起こす異常を監視し、振り回されます。
 ハルヒの破天荒ぶり、朝比奈みくるの萌えキャラぶり、長門有希の無表情/闘うときのかっこよさの落差という女性キャラの造形で持たせる話だと思います。朝比奈みくるを脱がせたり触ったりの男性読者の願望を満たすシーンをすべて女性キャラの涼宮ハルヒにやらせることで後ろめたさを減らしているのでしょうけど、その辺の計算が見えてちょっといやらしい。


谷川流 角川スニーカー文庫 2003年6月10日発行
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美の20世紀6 ムンク

2007-03-05 07:21:25 | 人文・社会科学系
 ノルウェーの画家ムンクの解説付き画集。
 ムンクの女性不信はよく指摘されていますが、「マラーの死」とか女性の殺人者が出てくる絵がいくつかある背景には、恋人に追い回された挙げ句の発砲事件があったのですね(44頁)。
 幼い頃肺結核で死んだ姉が「病める子」のモデルとされるなど母や姉の死が影を落とし、遊ばれた女性の存在が売春婦的な女性の絵の背景にあるようです。女性の絵では「マドンナ」「思春期」が有名ですが、今回初めて見た絵で「声」(19頁)とか「後日」(29頁)とか割りといい感じです。この絵のモデルは誰か、解説では触れられていませんけど、ちょっと気になります。私は「病める子(少女)」はリトグラフの方が好きなのですが、そっちは収録されていなくて残念。
 最後の方にいくつか労働者の絵があって、それほどムンクっぽくないのですが(ゴッホだといって見せられても納得しそう)いい線行っています。


原題:Edvard Munch
エリザベス・イングレス 訳:中田宏明
二玄社 2007年1月31日発行 (原書は2006年)
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愛の流刑地 上下

2007-03-04 12:58:22 | 小説
 かつては売れっ子だった55歳男性作家村尾菊治と3人の子持ちの36歳人妻入江冬香が、肉体関係を持ちその快楽に溺れて逢瀬を重ね、菊治が冬香の求めるままに首絞めプレイにふけり誤って絞殺してしまい逮捕・起訴されるという小説。
 上巻全部と下巻の94頁あたりまでは、全体の半分ぐらいが濡れ場ばかりのただのポルノ小説。渡辺淳一って、私は小説は学生の頃読んだきりで(だから「失楽園」も読んでません)その頃は女性向けソフトポルノの書き手と思っていたんですが、今や男性向けハードポルノ作家なんですね。はっきり言って、今時スポーツ新聞だって宅配版には掲載できないような内容で、これが日経新聞に1年3ヵ月連載していたというのはあきれるばかり。日経新聞の読者層についてのイメージが変わります。家庭や通勤電車や職場で、一体どういう顔してこんなの読めるんでしょう。
 純愛とかいってますが、菊治と冬香の関係って、初めてのデートでいきなりディープキス、2度目のデートですぐホテルの部屋に入って性交、その後会うや直ちに性交の繰り返しでただひたすらやり続けるさかりの付いた猫や猿の世界。10代、20代ならわかりますけど、55歳と36歳でここまで余裕のない肉欲だけの関係って信じられないし、ましてやそれを純愛だなんて。
 性感を初めて開発されてのめり込んだ人妻が夫も子どももおいてただひたすら性交を重ねるために通い続け、旅行に出たり泊まりがけで出てきたりしてほとんど外出せずに部屋にこもって性交にふけり文句一ついわない、で夫には体にも触らせず菊治に操を立てるって、男性の性欲と願望を満たすために都合のいい、実際にいるとしたら非常識なわがまま女。
 そのわがままコンビが、快楽のために始めた首絞めプレイで冬香が死んでから、突然刑事事件物に変わります。刑事事件物としては、東京地検では捜査検事が公判も担当することはないのに同じ検事が公判を担当(下178、200頁)、証拠請求に弁護人の意見を聞かない(下222頁)、検察官が証拠の要旨の告知で解剖報告書の内容に加えてそこから明確な殺意があるという意見を述べる(下223頁)、証拠の要旨の告知の後にまた冒頭陳述に戻る(下223~224頁)、前回証人申請に「しかるべく」と答えている弁護人に証人尋問の当日重ねて意見を聞く(下249頁)とか、ちょっと現実の手続では考えられない記載が目につきます。証拠の要旨の告知と冒頭陳述の合体は、裁判員裁判になるとそういうやり方になっていきそうですけどね。でもボイスレコーダーの非公開審理決定(下285~286頁)とか細かいところではたぶん経験してないとわかりにくいようなことまで書いてますから弁護士に取材したと思うんですけどね・・・。
 こういう首絞めプレイで誤って死んじゃったケースについては、確か私が学生の頃、現実に裁判で問題になって中山研一先生(刑法)が判決の論評をした文章を読んだ覚えがあります。そのときは殺人じゃなくて過失致死か傷害致死かって問題だったかと思います。この作品のケースも素直に行けば過失致死だけど実務的に据わりのよさを考えたら傷害致死かなってところなんだと私は思います。でも昨今のマスコミの煽る厳罰主義の風潮と検察の強気傾向からすれば、今起こったら殺人罪になってこの作品通りの量刑にもなるかもしれませんね。


渡辺淳一 幻冬舎 2006年5月20日発行
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だまされない<議論力>

2007-03-03 08:09:26 | 人文・社会科学系
 日本人の苦手な、議論の仕方、小論文の書き方について、具体例を挙げながら解説した本。
 真理に到達したり議論力をつけるには負けて屈辱を味わう必要がある、「負けることでしか新しく高い真理に到達できない。なぜなら、勝つだけなら自分がはじめから持っていた真理と出会うだけだからだ。新しい真理と出会うためには、積極的に負けねばならない。負けてはじめて、こういう考え方があったのか、とわかる。負けて感謝できる、それが議論の仲間だ」(95頁)う~ん、深いですね。
 もっとも、この本、本論の議論の仕方そのものよりも、議論になっていない悪い例、統計等を悪用したごまかしの議論の例を具体例・実名入りで批判しているのが、おもしろい。そっちの方が読みどころかも


吉岡友治 講談社現代新書 2006年8月20日発行
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百姓から見た戦国大名

2007-03-03 07:49:00 | 人文・社会科学系
 戦国時代の戦争が行軍の経路の住民への略奪・人さらいを伴い、戦争が作物・田畑等の破壊・略奪等による飢饉を生み、飢饉が口減らしと他国での略奪(食料調達)を兼ねた戦争を生むという悪循環を生じていたこと、村と村との戦争が近隣の村への支援要請、領主・有力者への支援要請から大規模な戦争へと容易につながっていったこと、大名の家中への統制が進むことにより村と村との戦争が上位者に波及しなくなると共に、大名側でも村・町の自力救済(暴力による解決・報復)を禁じて領主への訴訟(直訴)を認めて訴訟というよりコストの低い解決へと導いていったこと、さらに大名の権力が統合されていって秀吉の天下一統、江戸幕府の成立で平和な時代となっていた経過が説明されています。やはり自力救済(実力行使)の禁止と民事訴訟の普及は表裏一体で進められたのですね。弁護士としてはそうだろうなあと思います。
 こちらが著者のテーマと思いますが、さらに村側が安全確保のためにより有力な支配者を選択していったこと、大名も村からの年貢がなくなると困るので飢饉の際には年貢の減免や徳政令等を行い、村と大名側の間で事実上の減税交渉が進められたことも語られています。民衆側のしたたかさを認識するのはいいと思いますが、でもやはり民衆側には選択の余地や余裕は少なかったと思われ、それを過大に見るのはちょっと疑問を感じます。
 文書が豊富にある小田原北条氏の例が中心なので、他の大名にどこまで一般化できるかも慎重に見た方がいいかも。


黒田基樹 ちくま新書 2006年9月10日発行
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図説浮世絵に見る江戸吉原

2007-03-01 08:35:22 | 人文・社会科学系
 浮世絵などの図版付きの吉原解説本。
 医師以外は例外なく駕籠は禁止で歩いて入るしかない、武士も帯刀禁止とか、身分を振り回しても通じないのはちょっと気持ちいい。
 大火の度に大店が潰れたり復旧までに街中で許される仮店で大もうけする業者が出たりという話(30頁)や、遊女が心中立て(客へのまことを示す)の極みに指切り(小指をつめる)をする痛ましい話とその際に受刑者の指や模造品などを10人の客に渡すのが普通という話(58頁)など、したたかな駆け引きの話が興味深く読めます。花魁は、禿(かむろ。遊女屋に奉公する少女)や新造(禿が13、14歳になったもの)が「おいらの姉様」と呼び習わしていたのが短縮されて「おいらん」になったのだとか(9頁)。
 吉原で育てられて高い教養を身につけ、金や世俗の力になびかない誇りを見せた高級遊女も出る一方、酷使され病気になり無惨に死んでいった多くの遊女たちの姿が簡潔に紹介されています。


佐藤要人監修、藤原千恵子編
河出書房新社 新装版2007年1月30日発行(初版は1999年)
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