伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

西洋絵画の楽しみ方完全ガイド

2007-07-07 07:23:05 | 人文・社会科学系
 ヨーロッパの油彩を中心に基本的には画家1人について1つの作品を取りあげて見開き2ページで解説した本。
 1人あたり見開き2ページですから、もちろん、深い解説はありませんが、この種の本では時々知らなかった画家や知らなかった絵を発見できるのが楽しみです。この本ではパルミジャニーノの「長い首の聖母」(90頁)とフリードリヒの「氷の海」(135頁)が拾いもの。キリコの「ヘクトールとアンドロマケーの別れ」(208頁)やラファエロの「サン・シストの聖母」(72頁)も改めて見るとああいいなと思いましたし(「サン・シストの聖母」は聖母よりも下側の天使の表情が気に入っていたんですが)。
 イタリア・フランス・スペインの画家が多く紹介されている中でヤン・ファン・エイク(80頁)、ブリューゲル、レンブラント、フェルメールと、オランダ・ベルギーにけっこう人材がいるのですね(ボスやゴッホはおいといても)と再認識しました。


雪山行二監修 池田書店 2007年4月25日発行
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炎の聖少女 ヴェヌスの秘録2

2007-07-06 08:56:16 | 物語・ファンタジー・SF
 中世のヴェニスを舞台に、自分の髪から炎を発することができる少女をめぐり、厳格な信仰生活を求めてそれに反する人々を処刑して人々を支配する「神の子羊評議会」、食事や美・官能の喜びも神の与えた贈りものと受け取るべきだと考え神の子羊評議会を打倒すべく潜入した大司教、少女を愛した「神の戦士」たちが繰り広げる駆け引きを描いた小説。
 奴隷として売られ虐待されてきた少女の姿を描く冒頭は、読んでいて心が痛みます。中世の女性の奴隷が置かれた立場を考えれば、そうなるでしょうけど、女性の作家が女性の主人公をそこまで貶めなくても・・・と感じます。
 中盤から一転して奇跡を起こす聖少女とあがめられる少女は、しかし、奴隷の心のまま。それをつつましき美徳とも描かれているのですが、少女を主人公として読むには、最後まで強い主体性を見せない少女には読者としてもどかしく思えます。
 異教徒の圧倒的な侵攻を少女の力で救ってもらいながら、自らの権力を守るために少女を魔女と告発して魔女裁判を行い少女を火刑に処する神の子羊評議会の悪辣さ、それを阻止すべく闘う大司教の姿・駆け引きが読ませどころとなっています。
 1巻(6月11日掲載)とは、中世のヴェニスが舞台ということ以外は共通点はありません。1巻よりも2巻の方が洗練された感じがします。


原題:Saint Fire : The secret books of Venus 2
タニス・リー 訳:柿沼瑛子
産業編集センター 2007年4月30日発行 (原書は1999年)
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自分が「たまらないほど好き」になる本

2007-07-04 08:33:37 | 実用書・ビジネス書
 人間の行動が自分のしたことの動機となった考えを強める効果があるという観点から、人間が一貫した人格を創り続けること、その意味で人格は自分が選択した行動で強化され続け、他人がそれを強制的に変えることはできず、他方自分で何かきっかけをつかんで(考えをではなく)行動を変えることで変わることができるということを主張する本。
 嘘をつくことや、自分が本心から望んでいないのに無理をして人のために行動するとかうわべを取り繕うのは、本当の自分を知られたら嫌われるという動機があるので、その種の行動はそういう心理を強化し自分のためにならないということが繰り返し語られています。その意味で、無理をするなというアドヴァイスでもあるのですが、他方、まず行動を変えないと変われないということとの関係は理屈としてはフィットしない感じもします。考えが変わらずに行動を変えると本心と行動があっていないでしょうし。
 まあ、あれこれ言わずに、くよくよしないでまずできる範囲で前向きの行動を取ってみようよ、そうする中でおいおい自分が好きになれるような自分に変わっていけるよ、くらいの軽いメッセージとして気楽に読むといいんだと思います。


原題:SELF CREATION
ジョージ・ウェインバーグ 訳:加藤諦三
三笠書房 2007年5月15日発行 (原書は1978年)
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絵とき機械材料基礎のきそ

2007-07-03 07:45:43 | 自然科学・工学系
 鉄鋼を中心に機械材料の性質や製造について解説した本。
 鉄の性質や強度が炭素の量や熱処理で全然違ってくることがよくわかります。「鉄」と「鋼」も炭素含有量で区分けされているんですね(炭素が0.02%以下が「鉄」、0.02~2.06%が「鋼」、2.06~6.67%が「鋳鉄」だそうです:59頁)。原発でも製造過程の熱処理がよく問題にされますが、同じ材料でも熱処理を誤ると性質・強度がずいぶん変わり、熱処理が大事だと改めて感じました。
 非鉄金属の説明はかなり簡略ですが、鉄鋼などでは低温で脆くなるのにアルミニウム合金では低温で延び(靱性)がよくなる(151頁)のは不思議。
 基本部分を広く浅く認識できて勉強になりました。


坂本卓 日刊工業新聞社 2007年3月28日発行
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なぎさの媚薬 敦夫の青春/研介の青春

2007-07-02 07:59:11 | 小説
 先に完結編(4巻 きみが最後に出会ったひとは:6月25日掲載)を読んだ後第1巻を読んでみました。
 最初の設定は、不幸になってしまった女性のことで苦しみがあるからなぎさに会うということじゃなくて、単に昔に戻って本当はHできなかった女性とHできるとかいう噂を聞いてってことだったんですね。第1巻では、実際にはHしなかった女性とHすることで相手の女性が救われるって、いかにも中年男性サラリーマン対象の雑誌向けのお気楽で都合のいい設定。
 しかも敦夫の青春の方なんて、初恋の人に愛情に満ちた初体験をさせるって言いながら、自分はその初恋の人がレイプされるシーンを見ながら娼婦という設定のなぎさとHしたり、初恋の人の人生を変えるために少しずつ親しくなっていきながらその過程で何度もなぎさとHし続けるって、あまりに自分勝手というか(雑誌用の濡れ場設定の都合でしょうけど)ちょっとひどい。この話の主張なら、技術よりも気持ちだと思うんですけどね。
 研介の青春の方は、このストーリー展開で悦子先生が救われたって、かなり無理があると思います。愛人の死体の横で中学生に「生きてください」って言われてその中学生とその場でHしてそれで救われるなんて・・・。殺された愛人の事件がどう処理されたかの説明もないし。


重松清 小学館 2004年7月20日発行
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イラク占領 戦争と抵抗

2007-07-01 19:52:51 | ノンフィクション
 インディペンデント紙記者による2006年秋までのイラク占領のレポート。
 湾岸戦争後の過酷な経済制裁が(サダムにはダメージを与えず)一般のイラク人を困窮させたことが、失うものは何もない敵意に満ちた危険な人間であふれる崩壊したイラクを帰結したこと(第2章:49頁)、1945年のベルリンではソ連軍は陥落前からベルリンの復興のため密かに担当可能なドイツ人を招集し(140頁)1991年の湾岸戦争では激しい空爆で破壊された発電所などのインフラをフセイン政権は数ヶ月で復旧した(140頁)にもかかわらずバグダッド陥落から3年たっても電力供給は戦前以下の水準でバグダッドでも1日3~4時間しか電気が使えない(141、289~290頁等)、治安は最悪の状態で今やイラクは内戦状態で全くの無法地帯・・・こういったことが、サダム政権を嫌っていたイラク人を反米に向かわせているという指摘には納得します。
 アメリカのシンクタンクが2006年2月に行ったイラク人の意識調査でも、米軍に対する攻撃を容認するという答はスンニ派では88%、シーア派でも41%、クルド人で16%だそうです(272頁)。
 イラク暫定政府はバグダッドの米軍厳重警備下の「グリーンゾーン」から出ることもできず、近時は著者も、治安が回復しているというアメリカ・イラク暫定政府の見解は全く間違いだろうが今や地方は怖くて行けないから検証できない状態だとか。
 昨今のイラクでは、占領、テロに加えて汚職がイラクを破壊しており(282頁)、イラク政府軍に旧式の中古の武器しかわたらないのは米軍が最新兵器が武装勢力の手に渡ることを恐れているためだけでなく13億ドルもあった兵器購入費が国外に持ち出されて消えているためだそうです(291~293頁)。同様に電力省などでも5億ドルが消えており、慢性的な電力不足の一因だとか(293頁)。アメリカ政府とコネのあるアメリカ企業とイラク亡命者たちの政権運営の立派さには泣けてきますね。
 第15章で著者が紹介している事例もとても象徴的。イラク警察の重要犯罪取締部門のトップは米兵に自爆者と誤認されて射殺され、タラバニ大統領直属の儀典長はブッシュ大統領との会見のために空港に向かう途中に米軍の装甲車に突っ込まれて負傷して会見に臨めなかった(326頁)。イラクでは誘拐が成長産業になっているが、被害者はほとんど警察に通報しない。その理由は警察に通報してもほとんど何もしてくれないし通報したら誘拐犯が何をしでかすかわからないし、誘拐犯と警察がグルかも知れない(324~325頁)。あるイラク人医師が誘拐され、珍しく警察の検問で引っかかり誘拐犯が逮捕され誘拐グループは数え切れないほどの誘拐事件を自供したが、その誘拐犯の1人は現役の幹部警察官だった上、なんと誘拐犯を米軍の憲兵グループが警察から引き取り、釈放したといいます(329~332頁)。これでは誰も米軍やイラク政府を信用しませんね。
 こういったディテールが生々しいというか説得力のあって、読み応えのあるレポートでした。


原題:THE OCCUPATION : War and Resistance in Iraq
パトリック・コバーン 訳:大沼安史
緑風出版 2007年5月25日発行 (原書は2006年)
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