伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

私は逃げない ある女性弁護士のイスラム革命

2007-11-11 10:33:08 | 人文・社会科学系
 2003年のノーベル平和賞受賞者のイラン人女性弁護士の回顧録。
 パフラヴィー政権(王朝)下での最初の女性裁判官であった著者がイスラム革命で女性であるが故に裁判官の地位を奪われ、迫害を受けた知識人や女性の裁判を担当する弁護士として再起してイスラム法の解釈の中で闘う姿が描かれています。政権の暗殺リストに載っていながら(10頁、212頁)イラン国内で活動を続け、迫害された人々には無償で弁護活動を続ける著者の姿勢にはただただ頭が下がります。
 著者は、弁護士(法律実務家)としての条件の中で、イスラム法が誤っているのではなく現在の政権の解釈や実務が誤っているのだという立場で闘っています。過去の様々な時代の中でより現実的で緩やかな解釈がなされた例を示し、また現在の解釈の不合理を法律家社会の世論に訴えて行く姿はいかにも実務家的です。
 法体系が違うので理解しにくい部分が少なくありませんが、イスラム革命下で定められた刑法の下では男が少女をレイプした上で殺害し裁判を受けて死刑になると男の命の方が女の命の倍の価値があると評価されるために殺人犯の男の遺族は被害者の少女の遺族に命の値段の差額の賠償を請求できるそうです(174~175頁)。裁判所は被害者の遺族に賠償金の支払を命じ(175頁)、しかも犯人の1人は処刑の数日前に脱走した上、裁判所が両被告人について再審を開始し(176頁)その段階で遺族に付いた著者に裁判所は「イスラム法を批判するな」と注意し(177頁)、再審で両被告人は一旦は無罪となったがさらに再審でそれが覆され、抗議した遺族に裁判所は法廷侮辱で罰金を科し、裁判は今も続いている(178頁)とか。いろいろな意味で理解できない法と裁判制度です。
 回顧録という形態、著者が政権の暗殺リストに載っているにもかかわらず今もイラン国内で弁護士として活動していること、イスラム法の枠内で闘う道を選択していることから来る制約かも知れませんが、政権や法制度についての評価が体系的にはまとめられていないので、読み物としては全体としてちょっとわかりにくい感じもします。著者がパフラヴィー政権をどう評価していたのか(末期に批判して裁判所内でイスラム革命を推進したことは書かれているのですが)、イスラム革命下で女性の高等教育が進んだこと(167頁)と女性の法的地位の関係、日本語タイトルになっている国外脱出問題で「子どもたちのために」脱出するという知人たちに反対したこと(122~125頁)と娘のカナダ留学(268~272頁)の関係とか、よく読めば一応触れてはいるのですがもう少し書き込んで欲しい感じがします。レイプ殺人の被害者が11歳(173頁)のはずがすぐ9歳(175頁)になったりという緻密さに欠けるところもわかりにくくなっている原因と感じます。
 貴重なテーマと著者だけにより丁寧に体系的に書いたものを読みたいと、読者としては思ってしまいます。


原題:Iran Awakening
シリン・エバディ 訳:竹林卓
ランダムハウス講談社 2007年9月12日発行 (原書は2006年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔使いの呪い

2007-11-10 07:00:37 | 物語・ファンタジー・SF
 魔使いシリーズの第2巻。第2巻では、魔使いの弟子になって半年のトムが、かつて全盛期の魔使いが勝てなかった古代の邪悪な霊ベインと対決したり、無実の者を魔女と決めつけて処刑し続ける権力者魔女狩り長官に捕まった魔使いとアリスを助け出したりすることになります。また第2巻では魔使いが弱っており、トムは多くの場面で魔使いの力に頼らずに自分でボガートや霊と戦わざるを得なくなっています。
 第2巻になって、厳しいことを言う魔使いが女性関係で過ちを犯したり魔女を助けたりした過去や、魔女だったトムの母親の過去が明らかにされ、物語が大きく展開します。正と邪の間から邪の方に踏み出したアリスが、しかし結果的には魔使いが邪と指摘するアリスの選択によって魔使いや多くの人が救出されるという形で描かれ、魔使いがかつて犯した過ちや、トムの母親も魔女だったという展開から、正と邪の関係が大きなテーマとなってきます。「すべてが善の者も、すべてが悪の者もいない。わたしたちはみな、そのあいだのどちらか寄りにいるの。ただ、どの人生にも重要な一歩を踏み出す瞬間がある。光の側に行くか、闇の側に行くかの瞬間よ。」(252~253頁)というトムの母の言葉、「悪はおれたちひとりひとりの中にあるものだ。ちょうど、火花さえあれば、ぱっと燃えあがる小さな火種のようにな。」(371頁)という魔使いの言葉など考えさせられます。
 物語はトムの視点から語られていますので、トムの成長は読み取れますが、アリスは強い意志やしたたかさを持つと同時に川を渡れない場面でのか弱さや終盤での従順さが併存して理解しにくいキャラクターになっています。


原題:THE SPOOK’S CURSE
ジョゼフ・ディレイニー 訳:金原瑞人、田中亜希子
東京創元社 2007年9月28日発行 (原書は2005年)
第1巻は11月9日に掲載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔使いの弟子

2007-11-09 07:29:09 | 物語・ファンタジー・SF
 農場の7番目の息子の7番目の息子トーマス・J・ウォード12歳が魔女や精霊を封じる「魔使い」に弟子入りし修行中に、誤って魔使いが生きたまま封じ込んでいた魔女マザー・マルキンを復活させてしまい、マザー・マルキンと対決するというストーリーのファンタジー。
 魔法が使えるわけでもなく自信なさげな主人公と、腐れ縁になっていきそうな正と邪の間をさまよう魔女少女アリスの微妙な関係が読ませどころでしょうか。
 シリーズの第1作で日本語版は2冊目まで翻訳されています。
 ただ、アリスの性格設定や母親の強さで薄められてはいますが、「女とボガートはいつでもおだてにのる」(86頁)、「女を信じるな」(90頁)、「男は料理や掃除をしないものだ」(230頁)とか(短い引用ができるところだけじゃなくて少しまわりくどいものも含めるとかなりある)、今時のイギリスでこんなに性差別的な表現が頻繁に出てくるのは、ちょっと驚き。


原題:THE SPOOK’S APPRENTICE
ジョゼフ・ディレイニー 訳:金原瑞人、田中亜希子
東京創元社 2007年3月30日発行 (原書は2004年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

技術者に必要な岩盤の知識

2007-11-08 08:41:44 | 自然科学・工学系
 岩盤工学についての教科書的解説書。電力中研の研究者が主として揚水発電所の建設のために地下に巨大な空洞を掘削するための解析をしたり現場を見てきた経験から書かれています。「専門書にしては」読みやすい方と思います。
 人工材料と異なり「天然材料」の岩盤はばらつきが大きく、特に地殻変動や火山活動の活発な日本では地質が複雑で岩盤はいろんな種類が入り交じってモザイク様になっていること、岩盤試験や地圧測定は労力や費用がかかるので試験個数が少なく分散や標準偏差は求められないのが現状(72頁)、平盤載荷試験等の岩盤試験は載荷板のサイズや験体のサイズで結果が異なる(28~34頁)とか、岩盤の内部は切削切羽から10mも離れればどうなっているかは正確にはわからない(148頁)、ボーリング間隔約30mの間で局地的に地質が急変していたりする(149頁)とか、現場での悩みがいろいろ描かれています。
 災害列島といわれる日本では自然災害が一年中起こっているが調査団の報告書は事故と施工責任との関係が絡まるからであろうか往々にしておざなり(147頁)という嘆きも共感できます。
 第Ⅲ編の「岩盤の動きを予測する」は岩盤に空洞を開けたときの岩盤への影響を有限要素法で解析する過程が語られていて、素人には付いていけませんが、解析方法で結果がだいぶ異なること(132~133頁)とか、計算の前提となる数値を決める(仮定する)ときにはその不確定性に悩んだにもかかわらず解析結果がきれいに図化されて出てくると確定的な顔をしている(144頁)とか、興味深く読ませてもらいました。


日比野敏 鹿島出版会 2007年9月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クローズド・ノート

2007-11-07 08:09:55 | 小説
 おっちょこちょいだが万年筆には一家言ある女子大生堀井香恵が、バイト先で万年筆を買った客のイラストレーター石飛隆作への思いを、香恵のマンションの前の住人だった小学校教師真野伊吹の残した日記に勇気づけられながら実行していくラブストーリー。
 真野伊吹はぜんそく持ちの小学校教師で初めて受け持った4年2組を「太陽の子」のクラスにしようとはりきり、その途中で再会した大学時代の憧れの人「隆」への思いを日記に語り続け、香恵と石飛隆作の出会いは香恵のマンションを見つめている石飛でその後も石飛の視線はどこかに飛んで行きがちという、普通の神経の読者には最初から行き先の見える設定で、ほぼ唯一の関心はなぜか見え見えの事実に気づかない香恵がおそらくは最後に気づいたときどうするのかの1点に絞られます。それだって最初の真野伊吹の日記の引用が最後の言葉を省略していることからして結末はほぼ予想できるのですが、まあ、その約束されたエンディングがそれなりに美しいので許せてしまうかなというお話です。
 見え見えでも美しければ素直に感動できる人向けの小説です。トリックやどんでん返しがないと満足できない推理小説ファンは最初からパスした方が無難ですね。


雫井脩介 角川書店 2006年1月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラスト・イニング

2007-11-06 08:04:36 | 小説
 作者の代表作「バッテリー」の続編。
 「バッテリー」で4巻からさんざん気を持たせた原田クンと門脇クンの対決を6巻の最後まで引っ張り続けた挙げ句に結果を書かずに終わらせた作者は、ここでもやはりその試合が終わって2ヵ月たったところから話をはじめます。で、先に結果を書いてから、回想で試合の一部だけが再現されます。
 クライマックスの試合シーンを楽しむことはあさの作品では期待してはいけないことは、これまでの経験から読者は学んでいるでしょうから、むしろ中盤で門脇クンの第2打席が再現されただけでも期待以上かも知れません。
 作品としては、1ホームランの後2三振と抑えられた門脇クンが原田クンとの対決の機会を持つためだけに名門校への野球推薦を断って地元の高校に行ったその生き様を、自らも普通には天才と呼ばれる才能を持ちながら隔絶した天才が身近にいることで自分の才能を信じ切れず屈折した思いと葛藤を持ち続ける瑞垣クンの思いから語るところにポイントが置かれています。原田クンは完全に脇役(材料でしょうか)で、むしろ原田クンを信じ切れるキャッチャー永倉クンへのやはり屈折した羨望が語られたりします。
 この作品の終わりでもまだ原田クンは中学2年生の始め、門脇クンも瑞垣クンも高校1年生。また2年後くらいに続編が書かれるんでしょうか。
 内容からすれば当然に「バッテリーⅦ」なのですが、なぜ別タイトルなのか、出版社が変わったこと(版権の問題か)以外にも何か理由があるんでしょうか?


あさのあつこ 角川書店 2007年2月14日発行

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

図説百鬼夜行絵巻をよむ[新装版]

2007-11-05 23:57:31 | 人文・社会科学系
 室町時代中期に描かれたと推定されている百鬼夜行絵巻についての解釈論考を並べた本。
 共通点は百鬼夜行絵巻で描かれている化け物が古道具が霊力を持つようになった付喪神(つくもがみ)だということくらいで、なんかバラバラな感じ。最後の出典を見て納得しましたが、書き下ろしは最初の論考(この絵巻の元は付喪神記であって今昔物語は関係ないとか)だけで他はずいぶん前に書かれたものばかり。花田清輝とか渋澤龍彦なんてずいぶん前に亡くなってますし。何の調整もなく並べただけですから通し読みしてスッと落ちるわけもなし。こういう本の作り方って安直な感じがします。
 絵巻の図版だけ眺めてた方がいい気持ちで終われるかも。


田中貴子、花田清輝、渋澤龍彦、小松和彦 河出書房新社 2007年10月20日発行(新装版)(初版は1999年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幸子の庭

2007-11-05 07:30:04 | 小説
 都内の広大な庭のある旧家に住む不登校の小学6年生少女が、曾祖母が人生最後の旅と覚悟して訪ねてくるのに備えてそれまで荒れ放題だった庭を庭師に手入れしてもらいその庭師と樹や庭のことを語るうちに次第に変貌し、曾祖母とのふれあいを通じて元気を取り戻すというストーリーの小説。
 若い庭師の今時珍しい職人気質とたたき上げの修練、礼儀正しく明るい語り口が、児童文学らしく爽やかで心地よく読めます。白い花が季節をめぐり順次咲きこぼれる庭というのも爽やかなイメージですし。
 まあ杉並区内(都内で小学校が「井草小」ですから)で260坪の庭って、かなりの豪邸ですから、庶民には思いっきり縁遠い世界ですが。
 母親のあわてん坊ぶりがちょっとわざとらしいのも少し気になりますけどね。


本多明 小峰書店 2007年9月20日発行
日本児童文学者協会長編児童文学新人賞
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いのちはなぜ大切なのか

2007-11-04 09:05:06 | 人文・社会科学系
 ホスピスで終末期医療に携わる医師の立場から、昨今の学校で行われている「命の授業」への違和感を切り口に生と死の認識、死を前にして穏やかでいられるための心の支えについて論じた本。
 学校で流行の「命のバトン」の話(命は自分一人でできたものでなく多くの祖先・父母から受け継がれた大事なものというパターン)について、両親から虐待されたり関係が悪化している子どもにそんなこと言っても絵空事にしか聞こえないだろうし子供を産まない人への脅迫にも通じる(27~33頁)とかいうのは、そうなんだけどでも教育の場でどうすりゃいいのって気もします。
 命の大切さは、例えばあと6ヵ月の命と言われれば実感できるのは事実だが、残念ながらこれは長くは続けられない、それが長くなると患者も家族も疲れてボロボロになる(17~24頁)という指摘は、さすが終末医療の経験に根ざすものと思えますが。
 著者は、命の授業の必要性は結局人や自分を傷つけないようにすることが目的で、人が傷つけるのは希望通りにならない現実の苦しみが原因、努力しても原因を取り除けないことがあるがその時にどうするか、人が穏やかでいられる心の支えは「将来の夢」「大切な人との関係」「自分の自由」があること、人が自己肯定感を持てることが大事でそのためにも自由・自分のことを決められる自由が大事、支えられ方は個別性が高く試行錯誤しながら見つけ出していくしかないと論を進めていきます。
 要するに、マニュアル的な一般解はない、特定の答や万人向けの答を押し付けずに一人ひとりと向き合って考え続けようってことで、それは正しいと思います。同時にその実践は難しいですが。


小澤竹俊 ちくまプリマー新書 2007年9月10日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

個人事業の税金でトクする法

2007-11-03 20:10:18 | 実用書・ビジネス書
 個人自営業者の税金についての解説書。
 タイトルにあるような節税法はほとんど書かれてませんし、書かれていること自体は現に自営業者で確定申告している人にはすでにわかっていることが大部分ですが、個人自営業者の税金について広く薄くコンパクトにまとめたものとして確認用にはよさそうです。ただ用語とか言い回しはほとんどが法律用語そのままで、一般人には取っつきにくいと思いますが。
 表紙に「個人事業と法人成りの税金上の損得を徹底比較」と赤地白抜きで謳っていますが、それに当たるのは最後の13頁だけで内容的にも徹底比較というには少なく思えます。テレビニュース番組で「この後たっぷりお話しいただきます」というのと同じ感覚でしょうか。
 いつも感じていることですが、そして世間の人は誤解していることが多いですが、日本の税制では個人自営業者というのは税額が極めて高くされています。この本で仮に年間所得1800万円とした場合に個人自営業者なら所得税440万4000円、住民税180万円、事業税75万5000円で合計695万9000円の税金がかかるのに、同じ額を給料でもらう場合は所得税354万6000円、住民税154万円(事業税はなし)で税金は合計508万6000円という試算が示されています(212~213頁)。数字で示されると改めて個人自営業者がいかに税制上冷遇されているか実感します。


福田浩彦 日本実業出版社 2007年9月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする