2003年のノーベル平和賞受賞者のイラン人女性弁護士の回顧録。
パフラヴィー政権(王朝)下での最初の女性裁判官であった著者がイスラム革命で女性であるが故に裁判官の地位を奪われ、迫害を受けた知識人や女性の裁判を担当する弁護士として再起してイスラム法の解釈の中で闘う姿が描かれています。政権の暗殺リストに載っていながら(10頁、212頁)イラン国内で活動を続け、迫害された人々には無償で弁護活動を続ける著者の姿勢にはただただ頭が下がります。
著者は、弁護士(法律実務家)としての条件の中で、イスラム法が誤っているのではなく現在の政権の解釈や実務が誤っているのだという立場で闘っています。過去の様々な時代の中でより現実的で緩やかな解釈がなされた例を示し、また現在の解釈の不合理を法律家社会の世論に訴えて行く姿はいかにも実務家的です。
法体系が違うので理解しにくい部分が少なくありませんが、イスラム革命下で定められた刑法の下では男が少女をレイプした上で殺害し裁判を受けて死刑になると男の命の方が女の命の倍の価値があると評価されるために殺人犯の男の遺族は被害者の少女の遺族に命の値段の差額の賠償を請求できるそうです(174~175頁)。裁判所は被害者の遺族に賠償金の支払を命じ(175頁)、しかも犯人の1人は処刑の数日前に脱走した上、裁判所が両被告人について再審を開始し(176頁)その段階で遺族に付いた著者に裁判所は「イスラム法を批判するな」と注意し(177頁)、再審で両被告人は一旦は無罪となったがさらに再審でそれが覆され、抗議した遺族に裁判所は法廷侮辱で罰金を科し、裁判は今も続いている(178頁)とか。いろいろな意味で理解できない法と裁判制度です。
回顧録という形態、著者が政権の暗殺リストに載っているにもかかわらず今もイラン国内で弁護士として活動していること、イスラム法の枠内で闘う道を選択していることから来る制約かも知れませんが、政権や法制度についての評価が体系的にはまとめられていないので、読み物としては全体としてちょっとわかりにくい感じもします。著者がパフラヴィー政権をどう評価していたのか(末期に批判して裁判所内でイスラム革命を推進したことは書かれているのですが)、イスラム革命下で女性の高等教育が進んだこと(167頁)と女性の法的地位の関係、日本語タイトルになっている国外脱出問題で「子どもたちのために」脱出するという知人たちに反対したこと(122~125頁)と娘のカナダ留学(268~272頁)の関係とか、よく読めば一応触れてはいるのですがもう少し書き込んで欲しい感じがします。レイプ殺人の被害者が11歳(173頁)のはずがすぐ9歳(175頁)になったりという緻密さに欠けるところもわかりにくくなっている原因と感じます。
貴重なテーマと著者だけにより丁寧に体系的に書いたものを読みたいと、読者としては思ってしまいます。
原題:Iran Awakening
シリン・エバディ 訳:竹林卓
ランダムハウス講談社 2007年9月12日発行 (原書は2006年)
パフラヴィー政権(王朝)下での最初の女性裁判官であった著者がイスラム革命で女性であるが故に裁判官の地位を奪われ、迫害を受けた知識人や女性の裁判を担当する弁護士として再起してイスラム法の解釈の中で闘う姿が描かれています。政権の暗殺リストに載っていながら(10頁、212頁)イラン国内で活動を続け、迫害された人々には無償で弁護活動を続ける著者の姿勢にはただただ頭が下がります。
著者は、弁護士(法律実務家)としての条件の中で、イスラム法が誤っているのではなく現在の政権の解釈や実務が誤っているのだという立場で闘っています。過去の様々な時代の中でより現実的で緩やかな解釈がなされた例を示し、また現在の解釈の不合理を法律家社会の世論に訴えて行く姿はいかにも実務家的です。
法体系が違うので理解しにくい部分が少なくありませんが、イスラム革命下で定められた刑法の下では男が少女をレイプした上で殺害し裁判を受けて死刑になると男の命の方が女の命の倍の価値があると評価されるために殺人犯の男の遺族は被害者の少女の遺族に命の値段の差額の賠償を請求できるそうです(174~175頁)。裁判所は被害者の遺族に賠償金の支払を命じ(175頁)、しかも犯人の1人は処刑の数日前に脱走した上、裁判所が両被告人について再審を開始し(176頁)その段階で遺族に付いた著者に裁判所は「イスラム法を批判するな」と注意し(177頁)、再審で両被告人は一旦は無罪となったがさらに再審でそれが覆され、抗議した遺族に裁判所は法廷侮辱で罰金を科し、裁判は今も続いている(178頁)とか。いろいろな意味で理解できない法と裁判制度です。
回顧録という形態、著者が政権の暗殺リストに載っているにもかかわらず今もイラン国内で弁護士として活動していること、イスラム法の枠内で闘う道を選択していることから来る制約かも知れませんが、政権や法制度についての評価が体系的にはまとめられていないので、読み物としては全体としてちょっとわかりにくい感じもします。著者がパフラヴィー政権をどう評価していたのか(末期に批判して裁判所内でイスラム革命を推進したことは書かれているのですが)、イスラム革命下で女性の高等教育が進んだこと(167頁)と女性の法的地位の関係、日本語タイトルになっている国外脱出問題で「子どもたちのために」脱出するという知人たちに反対したこと(122~125頁)と娘のカナダ留学(268~272頁)の関係とか、よく読めば一応触れてはいるのですがもう少し書き込んで欲しい感じがします。レイプ殺人の被害者が11歳(173頁)のはずがすぐ9歳(175頁)になったりという緻密さに欠けるところもわかりにくくなっている原因と感じます。
貴重なテーマと著者だけにより丁寧に体系的に書いたものを読みたいと、読者としては思ってしまいます。
原題:Iran Awakening
シリン・エバディ 訳:竹林卓
ランダムハウス講談社 2007年9月12日発行 (原書は2006年)