いつものように上の大きなものが先行した司馬江漢の「東海道五十三次画帖」、下の小さいものが歌川広重の「東海道五十三次」。図柄はほとんど同じである。広重は江漢のものを利用したということらしい。
司馬江漢と歌川広重の「五十三次」を比べながら、何が違うのか、いろいろ悩んでいた。江漢は構図の上では西洋風の遠近法と、ものの影を描いて、日本の風景を描こうとしている。広々とした空間が持ち味である。
広重はどのように換骨奪胎したのか。ようやく先ほど気が付いたことがある。
江漢は構図がおとなしく、広重は構図を大胆にデフォルメしている。これは誰でもが気が付くことである。
その構図をどのような観点から大胆に変えたのか、ということを考えていた。
ひとつは人物や馬などを増やしたり、間隔を狭くして密集させたりしている。それに合わせて背景の近景を人物に近づけて、遠景はさらに遠くに見えるようにして遠近を強調している。
このことで人物に動きができて、画面に躍動感が生じている。
しかしこれだけではない。一番重要だと感じたのは、人物が被っている編み笠や背負子の色であった。江漢の編み笠などはくすんだ暗い黄色である。広重の描く人物の編み笠や背負子はあざやかな黄色である。さらに人物の着ている服の色、特に藍色を目立たせるために地面や背景の色を薄くして、人物が浮き出てくるように描いている。
特に編み笠の色が秀逸である。どの作品にも共通する楕円状の編み笠が印象的である。
広重は遠近感の強調と、色彩の対比を強めにして、雨や風や雪を利用して人物に動きを出し、それによって画面全体に物語性を付与している。雨の中を急ぐ人物は駆け足に思え、かごを担いだ人物の掛け声が聞こえ、汗までがにおい、雪の中を凍えそうになりながら、道を急いでいる。先を急ぐのか、くつろぐのか、それもきちんと描き分けている。
本日眺めていた成果は、このことに尽きる。