横浜美術館で開催している「モネ それからの100年」展を見てきた。展示は
第1章 新しい絵画へ 立ちあがる色彩と筆触
第2章 形なきものへの眼差し 光、大気、水
第3章 モネへのオマージュ さまざまな「引用」のかたち
第4章 フレームを超えて 拡張するイメージと空間
という構成になっていた。それぞれの章ごとに、モネの作品とその影響を受けた現代の画家の作品が並んでいる。
現代の画家がどのように影響を受けたのか、わたしにはよくわからないものも多かったが、色彩や構図から「なるほど」と直感的に理解できるものもあってそれを見るのは楽しい。解説の文章や帰宅後に図録を見てもその影響関係がわからないものは、いくら文章を読み込んでも分からない。というか言葉での説明を読めば読むほどわからなくなる。
第1章の展示は、初期の作品「サン=シメオン農園前の道」(1864、日本テレビ放送網(株))から始まる。
モネの初期の作品は空の雲が美しい。「サン=タドレスの断崖」(1857、松岡美術館)や「税関吏の小屋、荒れた海」(1882、日本テレビ放送網(株))などが並び、至福のひとときを過ごすことができた。17世紀のオランダ絵画と言われる一連の空が大きな比重を占める風景画などを見るようである。
また最初に展示されている縦長の「サン=シメオン農園前の道」などは解説では指摘していなかったが、江戸末期の浮世絵の構図の影響なのだろうか。横長の作品よりは緊張感があり、嵐の後のような黒い雲とその切れ間の明るい色が効果的であると感じた。
今回の展示だけで気がついたのが、風景画に添えられた一人ないし二人ほどの黒い人影。表情などは何もわからないのだが、1870年代以降この人影が風景画からなくなる。この人影はどうして画面から消えたのであろうか。人影があるとどうしても人そこに「物語」を読み込んでしまう。それを嫌ったのではないか、と考えてみた。色面と筆触で世界を描こうとした画家には「物語」は不要だったのだろうか。これは思い付きの仮設なので正しいか、否かはまったくわからない。
この章では、影響を受けた画家として、ウィレム・デ・クーニング、ジョアン・ミッチェル、堂本尚郎、中西夏之、ルイ・カーヌ、岡崎乾二郎、湯浅克俊、丸山直文などの作品が並んでいる。私が知っているのは、クーニング、堂本尚郎の二人だけ。
はじめて見たモネの「ヴァランジュヴィルの風景」(1882、ポーラ美術館)の印象が良かった。細い樹木の垂直な線と水平線、1本を除いて、水平線の高さで統一した樹木、これは浮世絵の影響による構図と解説してあった。浮世絵なら木を太く、その存在感を強調して描くがこの作品は逆に細く描くことで背景の海とその向こうの陸地が広々と見える。
この作品の印象が良くて、縦の線が生かされたミッチェルの「湖」(1954、静岡県立美術館)もまた印象に残った。画面中央に横たわる様々な色彩を含んだ激しいタッチの塊は、その筆致の激しさにもかかわらず、モネの晩年の森や木々を描いた作品に共通するものを感じ取った。
その他では小西夏之、ルイ・カーヌ、丸山直文などに影響の痕跡を見ることができたと思えた。