冒頭で女医が研修医と患者の病名を探るシーンがある。彼らは患者の背中に聴診器を当てて、その音で肺気腫だと診断する。医者として基本中の基本であるその作法は女医のこの映画の行動を規定する。実際に見たことのみを信じ物事を判断する。
それは人の行動の基本ではなかろうか。
彼女はだから一人の女性の死を、警察に任せることなく、一人で探り始める。それは彼女自身の生き方を探る行動でもあったのだ。
でもこの映画はそういう風に理念で考えるのではなく、彼女自身の拍動がこちらに伝わり、観客と同化させる一体感を感じるべきなのであろう。すなわち、彼女の行動は私たちと同一であり、その映画的躍動感がこの作品のすべてなのである。
背景として、移民問題等が描かれているが、それほど深く問題提起しているわけではない。一人の女性の人生の途上感を、めずらしくミステリータッチで描いた作品だと思う。
相変わらず素敵なタッチの作品である。でも、ただ普通に映像を眺めていただけでは、この作品の良さは分からないであろうと思う。彼の作品を見て、主人公と同様に驚き、悲しみ、喜ぶことを切実に感じ取る。その時初めてこの映画が珠玉の輝きを増していることに気づくのである。
秀作です。
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