セントの映画・小演劇 150本

観賞数 2024年 映画 92本、 演劇 70本

灼熱の魂 (2010/カナダ=仏)(デニ・ヴィルヌーヴ) 80点

2012-01-18 13:55:59 | 映画遍歴

確かに疑いなく衝撃の作品である。人間が考えるにこれ以上の受け入れがたい真実がこの世にあろうか。一応は上質で綿密な一流のミステリーである。しかし、このギリシャ悲劇を下敷きにしたような謎解きには悪意が入り込んでいる。

まず、テロにはテロをという循環が絶たれていないことを僕たちは知るべきである。彼女は生きることを選んだがために数奇な運命を辿ったが、いくら拷問を受けようが人を殺めたという事実は消えないはずだ。映画では人を殺めた反省・懊悩等は彼女の表情からは窺えなかったが、そもそも彼女がわが子供たちにさせたことは一体全体何だったのだろうか。

この作品で一番分からないのは何故母親が真実を手の込んだやり方で伝えたかということなのである。本流のオイディプス王であるなら、もっと本質的な命題があるのだろうけれど、敢えて真実を明かしてそれにどんな意味があるのだろう。

現代のオイディプス王もさることながら、オイディプス王の子供たちもこれ以降現代の荒野に彷徨うだけなのである。そんなことを母親が敢えてする必要は全くない。そして、それは人間としては生きていく上では明らかにしてはいけないものだったのではないだろうか、と思う。墓まで自分が背負い込んで持って行けばいい代物なのである。それは映画的には衝撃的ではあるが、どうも見終わった後の読後感が悪過ぎるのである。

というか、自分の頭の中でいまだ整理できないだけなのかもしれない。悪く言えば、あのミステリーのラストを導くために民族の闘争が使用されている感じもする。映画的にはなかなか鋭いところも多かった作品だけに、最後に来て興醒めと言う僕の印象である。敢えて言えばこの重いラストのために今までのすべてが拡散されてしまうのである。これはやはりやり切れない。

この映画はかなり賛否両論の映画であるまいか。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 久しぶりにゲーム機PS Vitaな... | トップ | 月光ノ仮面 (2011/日)(板尾... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画遍歴」カテゴリの最新記事