重く、耐えがたく、きつい映画だが、僕たちは目をそむけてはならない。人間はどんな環境でも愛さえあれば家族の絆をさらに深め、生きて行ける。ラストでは理不尽な現実に憤りを感じるが、それでもかすかに希望を感じ取ることのできる秀作となった。
凧が空を舞う。美しい。薄い青空だ。カメラは凧を追いかける。すると浮浪人風の男がそれを拾う。恐い出だしである。
今までいろんな映画を見て来たけれど、強烈に覚えている映画もあれば、ごく最近見たはずなのに忘れてしまう映画もある。この映画はおそらく一生忘れない映画だろうと思う。
子供が変質者にレイプされ、なんて作品はかなりあると思う。この映画の印象度の違いはやはり子供が瀕死の目に会い、しかも大腸と肛門の損傷がひどく、人工肛門の手術を受けざるを得なくなったという事実であろう。8歳の可愛い盛りの少女である。考えただけでも空恐ろしい。
マスコミ被害から娘を病院の中で避難させるとき、ふと娘に事件を思い出させてしまい、以降パパと直接会えなくなってしまう悲劇。その後パパは娘の愛するぬいぐるみの中で汗だくになりながら娘と接触を試みる。仕事の合間を見つけ学校に行き、また恐い帰り道を見守り、娘を遠くから近くから勇気づける。その優しいまなざし。
ぬいぐるみを通したソル・ギョングの演技がすごい。震えまで伝わってくる。彼はいろんな役を演じているが、いつ見ても臭くならないいい俳優だ。今回も完璧に近い演技で、またまた新境地を見せている。
レイプ時に心神耗弱のせいで犯人は減刑されてしまうが、大体そもそも心神耗弱だったら、手術が必要なほどのレイプ行為が本当に出来るものなのか。その事実を考えただけでも一目瞭然ではないだろうか。
この作品は、被害者の人権より被告の人権(再生)を重視する裁判制度の矛盾を鋭くついており、この意味でも秀逸である。被告人より被害者ないし家族の再生の方が本当は重要なのではないのか。
最後のシーン。娘が生まれた弟のために作る紙ひこうき。このひこうきは糸の切れた凧ではなく、しっかりと家族の絆で繋がれた空間を飛ぶだろうと思わせる。
韓国映画の力量を示す秀作である。見事だ。
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