ギャップを制するものは世界を制する:ゲーミングお嬢様の躍進

2019-12-10 12:26:26 | 本関係

格ゲーを扱った漫画と言えば『ハイスコアガール』などが有名だろうが、さらに主人公をお嬢様にし、かつクレイジーな金言を連発させるratio3覇王丸の大斬りがごとき破壊力を持った漫画が現れた。

 

それが「ゲーミングお嬢様」である。端的に言えば、コアなゲームネタをお嬢様が時に優雅に、時にアグレッシブに発言するという作品だが、これは要するにポプテピピック的な「カワイイ×凶悪」という魔のコラボレーションの再現と思えばよい。もはや物語の類型は出尽くし、創造の泉は枯れんばかりの今日において、小説であれ漫画であれ音楽であれ、サンプリングの妙で勝負するのが得策なわけだが、その一つの極北が、かわいいビジュアルのキャラと凶悪な行動・発言という組み合わせということだす。

 

『サピエンス全史』の作者、ユヴァル=ハラリの顰に倣って書けば、人間は麻雀と同じで幻想と言う名の遊戯を生きる存在である。要は不断の予測を元に動いているのであって、ゆえにそれが裏切られた時、大きな強度が生ずる。ただ、それが笑いになるか感動になるか、はたまた恐怖になるかは文化的背景の考察も踏まえたサンプリングの妙にかかっているのであり、そこが作者の手腕が問われる点だと言っていいだろう(ちなみにギャップが強度を生み出すことを理解しながら書いているのが非常にわかりやすく出ているマスターピースの一つが、地獄のミサワによる『カッコカワイイ宣言!』である)。

 

今回はストリートファイターやバーチャファイターが扱われているが、他にも餓狼伝説や竜虎の拳、KOFなど様々な記録と記憶に残る諸作品がある上に、そのクオリティの低さでぷれいやを驚愕せしめた「タカラ餓狼」、キャラ崩壊が悲喜こもごもの反応につながった「ボンがろ(コミックボンボン版餓狼伝説)」とメディアミックスまで含めれば、そのレンジはかなりの幅に及ぶ。

 

こういうわけで、「ゲーミングお嬢様」は、単なるノスタルジーでも色物でもなく、格ゲーなるものの奥行を市井の人々に周知する一里塚となったのであった。

 

民明書房刊『芸民愚御嬢様成立秘史』


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