大澤昇平発言の有害性:「国益を損なう」とはどういうことか

2019-12-11 14:05:01 | 生活

「大澤昇平の発言と日中外交:戦略的コミュニケーションの欠落」を一週間以上前に書いた。その時は、すぐに続きを掲載するつもりだったが、その周辺の発言を調べれば調べるほど余りに低レベルであることがわかり、先日の記事に何か付け加える必要性を感じなくなるほど呆れている。ということで、少し趣旨を変えて、大澤昇平のような発言がなぜ批判されるべきものであるか(無意味を通り越して有害である理由)、そしてなぜ現在の日中外交についても戦略的コミュニケーション欠落の範疇に入れているのかを以下に書いておきたい。

 

そもそも、今日において人種差別的とみなされる発言が議論を呼ぶことに違和感を持つ人はいないだろう。もしそれに反対の意を表明するなら、その人は(自分が日本人だとして)、たとえば「日本は今没落に向っているが、そもそもイエローモンキーが欧米に伍していた明治から昭和までが異常事態。『失われた30年』とか言われているが、当然のカタストロフだ」などという発言があった場合、それでも言論の自由だとして完全にスルーするのだろうか?

 

なるほどそのような噴飯ものの発言を承認するし、ゆえに自分自身も他の民俗や国家に対して差別的発言を容赦なくする、というのであれば一応理屈は通っているが、自分のことを言われたら抗議・非難するのに、他者については類似の行為をするというのはダブルスタンダードの最たるものだろう。

 

さて、もし仮にそのような発言を是認すると個人的な信条のレベルで認めたとしても、それがそのまま国際政治などのレベルでも有効であると考えるのは、外交や政治という名のゲームを理解していないという意味で、全くのところ愚かである(これについて日本政府の件で後にまた触れる)。

 

以上のことを踏まえれば、今回のような発言については、「言ってはいけない」という以上に、最低限「言うんなら徹底的にデータを集めて反論が極めて難しい状況を作ってから言え」ということになる。でなければ、乏しいデータを曲解しているか、それとも実はデータなどない状態であるかのように言っているかということで、どちらにしても発言者が差別主義者として非難される「だけ」なのは目に見えている。結果として、おそらく大澤が敵対心(穏当に言えば警戒心)を持っているであろう中国について、打撃とならないのはもちろんのこと、下手をすれば「借り」を作ってさえしまうという最悪の状況になってしまったのだ。敵に塩を送るような発言は、少なくとも戦略的コミュニケーションとは呼べないだろう(意図して塩を送り、内部の離間を促進するとか交渉に持ち込むとかの意図があれば話は別だが、そんな類の発言でないのは文脈からも明らかだろう)。

 

ついでに言えば、発言についての大澤の謝罪も極めてお粗末なものであった。彼は今回の発言が「AIの過学習による結論だった」としているのだが、どのようなデータからどう導き出したかの説明も、論理的必然性のかけらもなく、ゆえにそこからはただの責任逃れのニュアンスしか読み取れないものである。そのため、途中で香港の話などを入れてはいるが、全ては「それっぽく見せるだけの浅薄な理由づけ」であることが明らかにわかり、むしろ白々しいほどである(真摯に香港やウイグルの問題に怒りを表明し発言・活動している人たちにとって、これほど失礼なものはない)。以上を端的に言えば、大澤の発言は国益に利するところなく、むしろそれを損なう要素が大であって、非常に迷惑極まりないものなのである。

 

まあ強いて大澤発言に反面教師的な価値を見出すとすれば、AIの判定がこうして悪用されうるということ、そしてAIがそう判定したからと言ってそれを右から左に話すような間抜けなことをすれば、様々な不利益・軋轢を生じうるということだろう。(もちろんこれは皮肉だが)評価できる点があるとすれば、せいぜいそのくらいである。 

 

以上が大澤発言の有害性だが、そもそも日本政府のレベルでも戦略的コミュニケーションの欠落には目を見張るものがある。その最たるものが、香港やウイグルの問題で世界が中国に非難の目を向けているこのシチュエーションで、習近平を国賓待遇で呼び天皇と会見までセッティングする行為で、その外交音痴っぷりにはいささか驚愕させられる(香港やウイグルの問題に非難決議をすることもないし、一体何を考えているのか。ちなみに、これに関して鳩のついた誰かさんが中国にした発言を見ると、彼が救いがたく愚鈍な人間であると再確認できよう)。百歩譲って今の対応を継続するとして、没落する日本はそうすることで中国からどのようなゲインを得るつもりなのか(中国が今回の対応を歓迎するのは、米中摩擦を考えても当然のことである)。ロシアの時もそうだが、せいぜい相手に翻弄され空手形を掴まされるのがオチだろう。

 

いや、それですらまだいい。これまでの動きからすると、もっと最悪な事態なのではないか?つまり、トランプとゴルフをして仲良くしていることをアピールし、トランプと仲良くできるのは安倍首相だけだとか、あるいは「プーチンとファーストネームで呼び合う仲である」などとのたまうのと同じレベルで、「自分たちの政権は対外強硬路線だと言われているが、ちゃんと対話&宥和を大事にしていますよ」ぐらいの国内政治向けのポーズに使うつもりなのではないか?

 

賢明な読者諸兄はすでにお気づきのように、トランプと「仲良くした」はいいが、大量の型落ち兵器を莫大な費用をかけて購入したし、ついでに言えば鉄鋼・アルミにおける制裁は適用されている状態だ(これは例えば韓国に対しては適用されていない)。また、プーチンと「仲良くした」後に何が進展したかと言えば、北方領土を始めとして何も進展はしていないのである。

 

こうして、国内向けには東アジアの友好に貢献したぐらいのアピールがなされ、世界からは「非難をされている中国に日本が接近して一体何を考えているんだ?」と疑心暗鬼の目で見られ、日本の信用は低下する。そして日本が中国から手にする果実はほとんど何もない、というわけだ。

 

これが、日本政府レベルでの戦略的コミュニケーションの欠落である。あの中国でさえ、今では2049年(=中華人民共和国建国百年目)に覇権国家となる目標を意識し、環境問題などでは自分が「正義」の側に立って発言する努力をしている理由を考えたらどうか?

 

と述べつつこの稿を終えることとしたい。

 

※補足

ちなみに、本編で述べた「ゲーム」であったり、社会的擬制というものついて、愚かな人間はそれが擬制であるがゆえに欺瞞・無意味であると考えがちである。それを踏まえ、次回は国際法無視と惨劇にまみれた独ソ戦の紹介を書いてみようと思う。


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