前回、「キャバクラに接客マニュアルがあるのは必然的なことだ」と書いた中で、それはホストクラブについても(もちろん)同じことが言えると述べた。
彼/彼女らに必要なのは、あるいはその人たちが買っているのが「承認」なのだと考えれば、何ら不思議なことはない。手元に金銭があり、そして承認の枯渇があれば、そこに「取引」が成立するのである。だから例えば、裕福な男性が愛人を囲うというケースがあるのと同様に、裕福な女性が愛人を囲う(いわゆる「ツバメ」・「ヒモ」)現象があるのも驚くには値しない。いわば「推し」アイドルに金銭や時間をつぎ込むのに、男も女も関係ないのと同じである(100%とは言わないし、もちろん個人差もあるけどね)。
なんて話を書いたところで、おもしろいVtuberの動画があるので紹介しておきたい。
自己紹介からすれば、元泡姫で、ホストにハマり込んだ経験のある方らしい(ちなみに「風俗嬢がホストクラブにはまり込んで稼いだ大金を溶かしてしまう」というのは極めてありふれた話である。身体的・精神的に疲弊が大きい仕事をしながら、手元には見たこともなかった大金が残るのだから、その「はけ口」としてホストクラブが選ばれていて、そこも構造を理解した上で利用しているということだろう)。
用語の解説や様々なエピソードの紹介・説明とも参考になるが、特にコメントの返信を読む限りで配信者について思うのは、話題の件もあるのだろうが非常に慎重で、個別具体的な話を安易に一般化しない賢明さを持った方であるらしい、ということである(逆に言えば、愚かな人間の典型は、「自分の個別具体的な経験を無批判に全体に適用しようとする」・「相手が個別具体についての意見なのか、一般論について言っているのか区別できない」というものがある)。その意味でも、諸々の動画は一つの参照物として有用だと思う次第である。
ちなみに私は中村敦彦や鈴木大介、藤井誠二を中心に様々なナイトワークやセックスワークに関する本を読んできたが、その理由は様々な風俗店を利用したことがあるというだけでなく、「この世界がどうなっているかを知りたい」・「そもそも構造を知らないのに、どうして有効な語りができるのか理解できない」からだ。社会の疲弊が進んでいる昨今、ナイトワークやセックスワークはますますセーフティネットとしての側面を強くしていた。正確に言えば、可処分所得が減り、現役世代の貯蓄は少なく、無料のエロ動画・画像が氾濫していて、もはやそれらはセーフティネットとすら言い難くなってきている状況がコロナ前には到来していたのであった。
このような前提を踏まえると、「世界恐慌並」とさえ言われ始めているコロナ不況の先、どのような地獄が待ち構えているかは当然予測できるだろう。たとえば、大学の学費の件が問題になっているが、そもそも学費を払えない大学の生徒が短時間で高額を稼ぎやすいナイトワークやセックスワークに身をやつすという現象は容易に想定できる(ちなみにこれはコロナ前でも記事になったりしてたが、それが加速するということだ。これを批判するのは容易だが、じゃあ奨学金制度とかもうちっとどうにかなりませんかねと思う)。とはいえ、不況下では風俗の利用も減るわけで、ここにおいて競争相手が増え、顧客のパイが減った結果、元からナイトワークやセックスワークで何とか生活を保っていた人たちの生活は収入減(下手すりゃ無収入化)などで完全崩壊し、もはや行き場がなくなるわけである(で、生活保護を受けようとすれば抑止されたり批判されたりすると)。なお、この状況に加えてAIやVRの発達によって生身の人間との接触へのニーズが減れば、それもまた打撃となるだろう。
「自己責任」なる言葉に任せて社会を放置すると、こういった現象が起こる。そして、「自己責任」なんだから法律に触れる行為でもしない限り批判も擁護もしないならまだわかるが、水商売に関係していたということで抑圧と袋叩きはするわけである(おそらくだが、これから社会的に鬱屈を溜めた人の数は増えるので、この傾向はさらに加速されると予測できる)。これで精神的に病む人間や自殺する人間が増えていくのは容易に想像できると思うわけだが、こういった現象が構造的・連鎖的に起こることを私は「地獄」と表現しているのである(ならばBIを一時的にでも行った方が、経済的・社会的ダメージは少なくて済むのではないだろうか)。
※
少し補足。
本文中でも触れたが、そもそも性風俗に関わる人間をもはやひと括りに語ることはできない。一部の大金を稼ぐ人間と、そこそこのお金をもらえる人間、そしてギリギリその仕事によって生活を維持できている人間と、様々な階層に分かれる。
当然そこに関わる人間の意識も様々で、たとえば鈴木涼美の『AV女優の社会学』は、AV女優たちの語りがどのように構築されるかを分析している(中村敦彦の『名前のない女たち』などを読む際も、こういう視点は必要である)。
それはつまり「その仕事に就いている己を肯定するために、そこにどのようなロジックが用いられるか」であって、オーラルヒストリー=真実ではないという、当然ではあるが見落とされがちな点に注意を喚起しているわけである(これはAV女優やセックスワーカーが特別にそうだということではなく、そもオーラルヒストリーというものが、そもそういう性質を持っている。歴史研究において回想録や回顧録が取り扱い注意なのも、類似の事情からである)。
だから、こういったナイトワークやセックスワークの従事者についての話や論を聞く際には、それがどういう特殊具体性を持つのか、どう一般的傾向と切り結ぶのか、といった視点を常に意識しておかないと、とんでもないミスリードにハマる危険性がある(だからこそ実態を知る必要がある、て話になるわけだが)。
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