なにかもちがってますか?

2011-05-26 18:14:45 | 本関係

ブックオフでたまたま鬼頭莫宏の『なにかもちがってますか』という本を見つけたので購入してみた(ちなみに彼の作品は基本全て読んでます)

 

作者は「また、ささやかな世直しごっこを始めたいと思います」とカバーに(おそらく皮肉をきかせて)書いているので、それを念頭に置いて評価をしてみたい。で、言葉を選ばずに言うと「今のところ凡庸な雰囲気しか感じない」というのが率直な感想。もう少し詳しく説明しよう。冒頭は主人公の世界に対する違和感の独白から始まるが、それはあくまで断片的なものであり、クラスメートや家族と幅広くかつ上手くやっている。そんな微妙な「ズレ」が、「なにかもちがってますか」という題名として表現されているわけだ。でまあそこに一社というカゲキな思想をお持ちの転校生がやってきて、しかも主人公がそのカゲキな思想を実現しうる特殊な能力を持ってしまったがために、日常が徐々に崩壊していく・・・というようなストーリーだ。

 

でまあ一社の思想や行動がカリカチュアライズだというのは簡単にわかる。そもそも帯には「たぶん世の中は間違っていない。いろいろ変わっただけなんだろう。だけど僕らが生きにくいから、他人に無い“力”で世を曲げることにした」とあるし、一社は偉そうな能書きを垂れる割に不必要なケンカをふっかけてあっさり負ける(まあ主人公の能力を試すためではあるだろうが)など物事の帰趨を考えない行動をする人物として描かれているので、おそろしく頭が悪いように見える。その上、最初に殺す対象が「運転中に携帯電話をかけている人間」ときたら誰でもそのオカシさは理解できるだろう(この点はデスノートの夜神月と比較すればわかりやすい)。ついでに言えば、殺害対象の選び方は一社の「世直し」が私怨である、あるいは私怨でしかないことを暗示していると思われるが、一般化すると「大層なお題目も結局は私的な不満や不全感から来たものにすぎない」といったところか。こりゃ崇高なるものへの埋没を連想させるぜい・・・

 

っと閑話休題。そんな一社のあり方は一言で言うと「中二病」というやつ(笑)だが、逆にそれがあからさますぎて「で、それが何なの?」と思ってしまう(cf.「嘲笑の淵源弐」。つーかそれなのに学年が中3ていう点も微妙な「ズレ」なんですかね)。俺がよく使う表現で言うと、それでは単なる「風景の狂気」にしかならず、決して気付き(=深い納得)をもたらしえない。一社をネタにしたいのならもうちょい演出を工夫した方がいいし、逆に気付きを与えたいのなら「感情移入」のフック(or幻想)を与えた上で読者を侵食していかないと意味がないぜと(「ヒトラー最期の12日間」、「ひぐらし祟り殺し編」、「沙耶の唄」などが好例。それよりは描写に距離感はあるが、「ヒミズ」もよくできた作品だ)。「身近な人の死」を抽象的な思想と対置させることで揺さぶりをかける、といった演出の意図は理解できるが、今のところ全てが予想の範疇すぎて怖くもないしおもしろくもない(抽象的な怒りと他者に尊厳を認めない人間・・・といった話については「嘲笑の淵源:極限状況、日常性、『共感』」を参照)。

 

もっとも、主人公とは対照的に一社の家族についてほとんど書いていないあたり様々な伏線が用意されているのだろうし、「始まりとマイルス終わりのマイルス」では処女崇拝を揶揄する描写・設定が序盤から出てきてにやりとしたこともある(マイルスがギカクといきなりヤっているのもそうだが、処女のキオノナの無知がネタにされている)。また「ぼくらの」でのキャラの関係性の描き方や伏線は見事なものだった。そらに、「ぼくらの」とクロスオーバーする物質移動がどういう扱いになるのかといった点も気になるところだ(当然、他の能力者の登場も予想される)。そもそも作者自身が共通する世界観があるというようなことを「ぼくらの」のオフィシャルブックで言っていたので、「マイルス」と「のりりん」は乗り物で繋がるのか否か?といったことも含めて興味深い。それらを踏まえて、今後どう広げていくのかお手並み拝見といきましょうか。

 

このレビュー、なにかもちがってますか?


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ドラクエ4 95カ条の論題... | トップ | ドラクエ4 95カ条の論題... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

本関係」カテゴリの最新記事