覚書:日本社会における共同幻想の構造的特徴

2023-10-27 16:45:23 | フラグメント
日本の共同幻想の構造を考える時、四つのグループ分けをすると理解しやすい。それはAのようなピラミッド型ではなく、Bのような正規分布型(cf.偏差値分布)が実態に近いと思われる。その上で、「下」から順に④、③、②、①と設定し、それぞれの特徴と役割を考えてみたい。
 
 
 
【A:一般的に考えられがちなモデル】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【B:実態に近いと考えられるモデル】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最も下位に位置する④は、「仕組みから疎外された層」とも言え、アンダークラスとかなり重なる。「偏差値」というモデルからあたかも学校成績順のように想像するかもしれないが、「博士課程卒の大学非常勤講師」といったケースを含む点注意が必要。苦境から不満を持ちやすいが、今の日本は自他ともに自己責任論が蔓延しており、その主張は届きづらい。「上手くいってない」人たちなので、発言を「弱者のルサンチマン」として処理されやすいからだ。つまり、仕組みの変容には寄与しない。彼・彼女らがこぞってエッセンシャルワークから離脱し、生活保護を申請といった異議申し立ての手段はありうるが、社会の分断が急速に進む中、団結はますます困難になっており、現実的とは言い難い。かつ、「まじめさ」が仇となって戦略的サボタージュをしない・できない人も少なくない。ゆえに、「やらんなら別の人に仕事まわすわ~」となってしまい、④の待遇改善につながりにくい状況が生まれてしまっている。
 
 
③は中間層での下位にあたる。組織には属していてそこそこの収入はあるが、経済衰退で自分の立場が脅かされる不安を感じている。中小自営業も多い。そこそこ上手くいっており、多少「持てる者」であるが、転落の恐怖・不安が強いためにしがみつく傾向も強い(ナチスを指示した中心グループはこういった没落中間層だった)。いわば「茹でガエル」のボリュームゾーンとも言える。現状に不満が皆無というわけではないが、いざ本格的な変化の段になると頑強に抵抗する。空気醸成の中心グループその1。
 
 
②は中間層での上位にあたる。組織に属しており、かつその上層にいる。ホワイトカラーなどいわゆるアッパーミドルにかなり重なる。システムに対する理解渡は③に比べて相対的に高く、あえて言えば「空気を作る側」。「空気」があることで今の自分の立場があり、そこから比較的安定した便益を得ているため、「空気」を利用することに価値を見いだし、ゆえにそれを温存しようともする。先の大戦の「失敗の本質」含め、組織の外側から見るとあまりに馬鹿馬鹿しいミスも多いため、頭の良し悪しで解決できる=頭の良い人間を送り込みさえすれば組織の害悪は改まると思いがちだが、それが全くの勘違いなのはこの②に存在による。②自身も、この流れに抗うと面子が潰れるなどして立場を失うため、むしろその護持に回り、変化をさせようとするものたちと対立する。外野から見た時の②の加害性・主体性と、②自身の被害者意識の乖離はここから生じる(先の戦争で「忸怩たる思いはあったが空気に抗えなかった」という将官たちはこれに近い。なお、ニ・二六事件に限らず、親独派や艦隊派の青年将校たちによる突き上げが状況を動かすことがしばしばあり、先の大戦での失敗を単に最上部の人間たちの独裁・暴走と捉えるのは完全に間違っている)。ちなみに「ファスト教養」はこのグループに属する(正確に言えば、手っ取り早くこういう層になりたいが、「空気」そのものにはシニカルな眼を向けているため、「出し抜く」といった志向が色濃くなる)。空気醸成の中心その2。
 
 
①は最上位層にあたるが、組織から外れた、ある意味「頭が回りすぎて組織に馴染まない」ような層も含む。こう考えると、あたかもこの層が共同幻想を破壊しそうなものだが、全体に占める割合が少ない上、②や③の共犯関係・精神構造に(ある意味聡明過ぎるがゆえに)考えが及ばないため、合理的な分析も提案もできるが、それが採用されることはない(正しい指摘さえすれば、その正しさに人がコミットしてより良い方向に向かうのは当然だ、という思い込みがあるケースもしばしば)。
 
 
以上のような理由で、②・③というボリュームゾーンの共犯関係からなる「空気」という共同幻想は、①の提案や④の異議申し立てを無効化する構造になっているがゆえに、そのまま維持されてしまう。これが「今さらやめられない」理由である。
 
 
ただし、全員がそれを信じきっているわけでは全くない。だから「王様は裸だ」という外圧があると、①や④の意見がブーストされる上、②や③の中にも存在する不満や勝ち馬に乗ろうとする精神構造が重なり、一気に潮目が変わって仕組みが大きく変化することがありうる。このように、ゲームチェンジの歯車を駆動させるピースになりうるため、日本社会においては外圧が重要な役割を果たすことがしばしばある(強固な閉鎖的構造を持っているように見えるが、外的操作の元である特殊な環境を作り出すと、一気に構造変化が起きる。ただし、その変化した後の仕組みが新たな空気となり、強固な共同幻想と閉鎖的構造の再来となる)。
 
 
言ってしまえば構造の自浄作用を大きく欠いている。それは教育の仕組みや組織の成り立ち、社会構成が実際にこうなっており、さらにこういう人材を量産する仕組みになっているから。ゆえに、社会の地盤沈下が進んで③層の大半が④に押しやられるでもしない限り内部からの変化は起きない。他の変化として、AIの導入によるホワイトカラー大量死亡で②→③の大量移動が起きても、むしろそれは「しがみつき層」が増えることで共同幻想のファナティックさを増すだけであり、むしろ事態はよりアンコントローラブルなものとなるだろう。

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