沙耶の唄~人類の存続に必然性などない~

2013-02-22 14:02:36 | 沙耶の唄

『純愛』なる印象の必然性」に続いて「属性」に絡めた交換可能性の記事を書くはずだったが、予定を変えて急遽こちらを(再)掲載しておきたい(次の記事で使うため)。なお、原文はかなりの数リンクを貼っていたが、それはあえて復活させていない。一部は「沙耶の唄:神域の完成度」→「disillusionの内包」のように再掲載をしているので必要があれば検索などかけてくだされ。ちなみにこの記事を元々いつ掲載したのかはっきりとは覚えていない(ぉ)。が、「虚淵玄の期待とプレイヤーの反応の齟齬」の原文を掲載した時期よりは古いので、おそらく2006か2007年のものと思われる(実際、保存フォルダが「沙耶の唄」→「古い」となっていたw)。

 

[原文]

沙耶は地球外生命体であるが、その描き方には特色があるように思う。それは、ある意味で人間(地球人)と沙耶を同等に扱っていることである。

普通、宇宙人は侵略者か友好的な存在のどちらかとして描かれる(前者はインディペンデンスデイ、後者はE.T.など)。沙耶は一応前者に属するわけだが、そういった存在が地球を侵略する「悪者」として描かれるのに対し(視聴者が人間である以上当然ではあるけど)、沙耶は、言ってみれば「彼女なりの生き方をまっとうしているだけ」という位置づけをされている(言葉としては出てこないが)。人間が生存本能によって沙耶を排除しようとするのと同じで、沙耶は繁殖の本能に従って地球を侵食するのだ(しかし実は、沙耶自体も人間の基準を学ぶことで「本能が壊れ」てしまっている。それについては後述)。

全面戦争のような状況になっているわけではないのだが、あえて図式的な言い方をするなら、二つの必然性(本能)の衝突が、沙耶の唄の終盤の状況なのであった(次の記事で述べる)。そして、沙耶の側が特にクローズアップされていることからもわかるように、必然性に善悪を設けていない。人間の側を善と位置づけたいのなら、沙耶の葛藤などを見せずに単純に「侵略者=悪」として描けばいいのだ。ちなみにこの姿勢は、同社の「天使ノ二挺拳銃」における、小巻の「ウイルスはただその在り方をまっとうしただけ」という発言にもっともよく表れている。

考えてみると、人間がこのまま地球に存在し続けることが妥当であるという理論的根拠はどこにもない。また宇宙人が「侵略者」という描き方をされる理由の一つであろう「侵略は悪」という見方は、人間が社会の中で作り上げた枠組みに過ぎないから、宇宙規模でその基準を当然のものとして適用するのは誤りと言えるだろう。

また、はじめに沙耶が人間と同等に扱われていると書いたが、それはつまり、沙耶が人類を罰するための存在ではないという意味でもある。その根拠は、沙耶の「邪悪さ」がしっかりと描かれていること。詳しくは過去ログの「沙耶の唄:神域の完成度」を参照してほしいが、簡単に言えば、青葉を捕食したことなど基本的に生きるために行動してきた沙耶が、明確な悪意をもって津玖葉を改造するのである(鈴見の改造と比較するとわかりやすい)。これによって、沙耶の側にも滅びるべき理由が与えられていると言える。

ところで、本作のこういった内容はどのように評価できるだろうか?もちろん話の出来の良し悪しという基準はある。だが、それと同時に、人間中心のモノの見方を相対化できるという効果があるように思う。というのも、さっき書いたように一般的な映画は宇宙人を「侵略者」か「友人」としてしか描かないからだ。そこには人間が滅びるべき存在であるかもしれないという内省(など)は見られない(「地球上で最も残酷な動物」として人間を挙げる程度の賢しらさはあるのに、だ)。しかし沙耶の唄では、沙耶を人間と対等に位置づけることで、単純な善悪二元論を乗り越えているように思う。さらにその上で人間の基準を学んだ沙耶の振舞いを見せ、既存の人間の基準(恋愛など)をより有効なカタチで相対化しつつ、プレイヤーに提示していると言える。


(補足1)
なお、一般の映画的な展開によって植えつけられたものの見方をよく相対化しているゲームとして、「終末の過ごし方」がある。そこでは、映画「アルマゲドン」のような人類の危機に対して立ち向かう態度がいくつもある態度のうちの一つにすぎず、そこにも必然性が存在していることをうまく表現している。詳しくは過去ログ「名作レビュー:終末の過ごし方」を参照。

(補足2)
原画集での製作秘話によれば、クトゥルフ神話、手塚治虫『火の鳥・復活編』、黒澤明「カリスマ」、ゲーム「サイレントヒル」などがヒントになっているようだ。


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