幕末から明治初期に来日した外国人の眼から、当時の日本はどのように見えていたのか、そしてそれは現在の日本に何を提起しているのか、それを膨大な資料を駆使・発掘して上梓した労作が、渡辺京二『逝きし世の面影』(平凡社、2005.9.)だ。600頁を越える大作なので少しずつ読んできてやっと読み終える。
それは江戸時代の民衆をどう分析するかということに尽きるかもしれない。若いとき読んだ白土三平の『カムイ伝』や『忍者武芸帳』などの漫画の影響から、江戸時代というとつい支配・被支配関係の封建的な図式が浮かんでくる。
しかし、外国人の眼からは、「ヨーロッパにはこんなに幸福で暮らし向きのよい農民はいないし、またこれほど温和で贈り物の豊富な風土はどこにもない」(初代英駐日大使・オールコック)という絶賛の評価が少なくない。こうした安穏の理想郷とも言われた文明が、明治維新以降の西洋化・近代化とともに死滅してしまったやるせなさが全編を覆う。
というのも、明治になって富国強兵の国家指針が太平洋戦争の敗戦に至るまで貫徹していった過程もさることながら、戦後の知識人の多くが階級闘争史観や西洋中心主義にとらわれてしまったことからくる弊害を作者は指摘する。在野で論陣を張る歴史学者らしく既成の理論に挑む舌鋒は鋭い。