畏友が年2回送ってくれていた雑誌『知遊』が30号をもって最終号となった。創刊どきの編集委員は、先覚的な歴史学者・木村尚三郎、日本芸術院長の犬丸直、現日銀総裁・黒田東彦。この3人を中心に医療と福祉・工学との連携が今後の日本の文化を深化させるとして、発行元のNPO法人「日医文化総研」も同時に作られる。医療器具のパイオニアである「カワニシホールディング」がそれをサポートしている。
なかでも、ヒューマンドキュメント「医療機器を開発する人たち」は本誌の基本モチーフとなっている。この分野では先進国の中で日本が後れを取っている情勢にあるので、地道に開発してきた功労者にスポットを当てた意味は大きい。
編集委員はその後、動物行動学の今福道夫、読書人の俳優・児玉清へとリレーされ、現在は、その今福さんと無名塾の仲代達矢、歴史学者の磯田道史、の三人となった。これらの顔ぶれを見れば、本誌は単なる医療雑誌に終わらず、演劇・美術・囲碁・動物学・経済・歴史などの「創造の沃野」を耕し続けてきた時代を先取る文化雑誌となった。
本誌は非売品だったので書店に並ばなかったのはもったいなかった。国立・県立図書館などの大きな図書館でしか閲覧できない。しかし、歴史はこの荒野を拓いてきた『知遊』の志に輝かしいスポットを当てるチャンスを刻印したのは間違いない。ずうっと地道に送り続けてきてくれた畏友に感謝するとともに、そうした友人がいてくれていることを誇りに思う。