ガンダムを手掛けた安彦良和の漫画『王道の狗』全4巻(白泉社、2004.12)を読む。表題からして難しい。「王道」とは仁徳をもとにした治世。その「狗(イヌ)」は獣としての小犬。明治末の日・清・朝の東アジアが舞台。自由民権運動で捕縛された若者の脱獄から物語は始まる。
主人公はアイヌに逃げ込み、アイヌの生き方を学ぶ。合気道を身につけた主人公は、日本に亡命していた金玉均の護衛に就き、朝鮮近代化を願う清冽なその精神に打たれる。しかし、日本も朝鮮も彼の扱いは事実上冷遇、上海で暗殺される。その時代から朝鮮の権力闘争・内紛は激しく、韓国の覇権争いや腐敗構造へと受け継がれているようだ。
日本の針路をめぐる波は富国強兵・国家主義へと舵がきられていく。そこに、陸奥宗光・伊藤博文・福沢諭吉・田中正造らが登場していく。
作者は、日本が道を間違えたのは日清戦争からだと指摘する。それを勝海舟の言葉で表現する。「朝鮮の問題で国を煽って西洋のお先棒を担いで支那と戦争をしようとしやがる馬鹿野郎がいるのサ!!こういうのを放っておいたら国は百年の計を誤るよ!!」と。
明治維新の成果を歪め、アジアに対する加害者に転ずる覇権国家への舵を切ってしまった時代を告発する。李朝朝鮮26代王妃の閔妃(ビンヒ)を暗殺・虐殺したのも日本の軍隊・警察だったのは意外に知られていない。
清の李鴻章・袁世凱・孫文などの政治家も登場し日本の高圧的な姿勢を暴いていくが、孫文らの革命家を支援するのが日本の右翼であったのも興味深い。作者のアジア主義的な視点が全4巻に貫かれているところは他の漫画家の追随を許さない。
ちなみに、『虹のトロツキー』の舞台は満州国成立前後、そうした国家主義的な背景のルーツを探ったのが『王道の狗』とも言える。しかしながら、後半は、掲載誌の休刊が迫っていたため急ぎ足となったのが残念。日本が犯した誤りを認めたくない政治家や大衆には胸糞悪い内容だろう。だから、中国や朝鮮から「歴史に学ばない日本」を揶揄する声にしっかり応えたのがこの漫画でもある。